オレンジ編

□廊下にて
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「なあ、なあ、アリス。あんたって、ブラッドと付き合ってるのか?」

「は?エリオット?」

廊下で会ったウサギさん。

ウサギさんことエリオットは、私にそんなことを突拍子なく聞いてきた。

彼自身が否定しているウサギ耳はひょこひょこ揺れている。

顔の様子からも、ウサギ耳からも、彼の感情を察することができるのだが。

ただポカンとした顔で聞いてきた彼。

別に怒っている訳でも、気になって仕方がないんだ、という訳でもなさそうだ。


(…何の確認かしら。)

彼の質問内容は迷わず否定したいところだ。

自分とブラッドが付き合っているなんて、一体どこからそんな勘違いが生まれたんだろう。

目の前のウサギさんを観察しながら、以上のようなことを考えた後で、

「違うわ。」

完全に否定する。

「そうなのか。」

「そうよ。なんで、そんなこと聞くの?」

「いや、なんとなく気になったんだ。あんた、ブラッドといる時は楽しいだろ?」

楽しいだろ?と聞いてきたウサギさんは、私に同意を求めてくる。

いつもよりは控えめのキラキラな目を、この私に向けてきた。




(エリオット…)

無茶だ。

楽しくないこともないけど、ブラッドと接していると、楽しいというより疲れる。

彼はいつも危ない方向で絡んでくるので、私は話題を逸らすことが大変だ。



「た、楽しい…かな?」

やや疑問のように語尾を上げ、そこそこの同意で留める。


「そっか、やっぱりな。ブラッドと一緒にいるの楽しいよなぁ〜」

「…うん。」


嬉しい様子で笑うエリオット。


その笑顔に悪いなと思いながら、彼に気付かれないようにため息を吐く。

(エリオットは楽しいのよね。)


さて、このウサギさんは何でこんなことを聞いてきたんだろう。

その疑問だけでも解決しないと、気になってしまう。

「なんでこんなこと聞くの?」

「それは、まあ、気になったから…だ。」

釈然としない態度。

彼の語尾が小さくなった。


「なあに?私には秘密なの?」

「そ、そういうことじゃねぇよ。」

慌てる様子のエリオット。

気になった点は多々あるが、一つ気になる点を上げるなら。

彼のウサギ耳だ。

落ち込んだ時のように、へにゃりと曲がっている。

「じゃあ、言いなさいよ。」

少し強気に出てみる。

エリオットの耳は曲がったまま、へにゃへにゃと動いていた。


「…ただ、あんたがブラッドと付き合ってたら、あんたのこと」

「うん。」

「あんたのことを、姐さんって呼べるなと思って。」

「は?」

「ブラッドの妻だから女ボスで、姐さんって呼べるよな…だから」

エリオットは焦りながら説明する。

その説明を半分は聞き流しながら、

私はクラリと眩暈を覚えた。

「…ただ、私のことを姐さんって呼びたいから聞いてきたの?」

「違う。そうじゃなくて、あんたがブラッドの妻になる、つまり女ボスになったら嬉しいんだ。」

「だから、エリオットは私を姐さんって呼びたいからでしょう?」

「…それもあるけど、ブラッドの家族っていうのが嬉しいんだ。」

「なに?」

「だって、あんたがブラッドと結婚したら、帽子屋ファミリーの一員だろ?」


このウサギさんは、なんてことを言うんだろう。

(居候させてもらっている身だから、一応関係者な気がするんだけど。)

と心のツッコミを入れておく。


「あんたとブラッドが結婚する時は、友人代表のスピーチを考えるのが楽しみだぜ。」

「…。」

付き合ってないんですけど。

さっき断りを入れたはずなのに、すでにその情報がぶっ飛んでやしないだろいか。

嬉しそうにキラキラと目を輝かせているエリオット。

(むしろ、このウサギさんに嫁に出されそう。)

非常識な世界だ。

結婚が本人達の合意とかそっちのけで進められそうな気がする。

しかも、彼らがマフィアであることは忘れていない。

「アリス、あんたのウエディングドレス姿は綺麗だと思うぜ。」

「あ、ありがとう。」


ここにブラッドがいなくて良かった。

面倒そうな彼のことだ、エリオットに流されるのが目に見えている。


(本当にお嫁に出されるかも。)

その前に、この世界から私は脱出できるのだろうか。

逃げ出そうとしても、彼らから逃げられるのか。

(逃がさないつもりよね。)

そんな気がしてならない。



END

懐かれているらしい。

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