短編

□月語り
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一人の少女が月を眺めていた。




月明かりに照らされた横顔。

白い肌が更に透き通って見える。



「…風邪引くぞ、お嬢さん。」



テラスで一人。

月を眺める彼女に声をかけた。



しかし、隣に行っても、

彼女はそのまま月を眺めている。




特に珍しいこともない、白い輝きを放つ月を。



「…。」

「…何をそんなに見ているんだ。」


そう聞いてみても、彼女の反応は薄い。

彼女の瞳は、空を見つめる。




…何度見ても、変化のない月だ。

面白くもなんともないだろうに、

彼女は何をそんなに熱心に見ているのだろう。



(…。)

その濡れたように、しっとりとした瞳には何を映しているのだろう。




音も無く、シンとしたテラスで一人、

夜空の白い光を見つめる。


彼女は思いつめているようにも見えるし、

ボーっとしているようにも見える。




(まあ、どちらでも良いがな…)


「恋煩いか?お嬢さん。」


「…違うわ。何となく見ていただけよ。」



「それにしては、妙に熱心に見ていたと思うんだが。」


「…それは、貴方の気のせいね。」



棘のある言い方は彼女らしい…

何をそんなに隠したがるのか。

どんな企みがあるのかと、気になってしまう。




「女性というものは、月を見つめて何を思うんだ?」

「特に、何も。…とにかく、恋煩いなんてありえないから。」



「そうとも限らないだろう?君は恋をしているはずだ。」

「過去にね。…今はありえないわ。」



月を見つめていた瞳で、今は熱っぽく私を見ている。

その瞳に、つい笑ってしまう。





理性的な君を熱くさせる。



その瞳は本心か、



それとも…



End

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