短編

□闇に隠れた月
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内と外を隔てて、足にはヒタリと少し冷たい感触。

テントの外は未だ夜だ。


「アリス、何してるの?」

「……。」


彼女は、何も聞こえていない様子で空を眺めていた。

考え事でもしているのかもしれない。




「誰のことを考えている?」

「…エース。」

後ろから抱きしめると、彼女は驚いたようだ。

でも、驚いただけで逃げたり抵抗する気配はない。

それに、クスリと笑みがこぼれる。



「…誰のこと?」

「……。」



「それとも、違うことを考えていた?」

「……。」



(…つまり、どちらも正解なんだ。)

アリスは俺を見ている。



どう答えて良いのか分からない様子で、


話そうとする言葉に迷っているのが分かった。



「じゃあ、答えなくていいよ。」

「…エース。」


「俺は、優しい騎士だからね。」


彼女の唇にキスをして、そのままテントに連れて行く。



そう、答えなくていいんだ。


(君が何を答えても、俺の望んだ答えとは違うよね。)



言葉はいらない。


君は態度に出てくれるから、言葉はなくてもいい。



…可愛いアリス。

何も考えられなくしてあげるよ。





End

月は隠される。

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