短編

□近くに
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時計塔の屋上。



その白い横顔が、妙に神秘的に映る。

普段のコイツとは、あまりにもかけ離れた雰囲気で、

違う世界を垣間見ているような気がした。



奇妙な不安感。

そのせいかもしれない。



気が急いた。



(私らしくないな。)



「アリス。」

「なに?ユリウス。」


声をかければ、すぐに彼女はこちらを向いた。


心の中で、少しホッとする。




なぜか、呼んでも気付かないと思った。




「妙に熱心に見ているようだが、何かあったのか。」

「そう?そんなに熱心ってわけじゃないけど。」



目を開けたまま寝たかと思った、

と付け加えたらアリスは苦笑した。




「違うわ。何かあったとかじゃないの…」


それほど経たないうちに表情を変える。


神秘的な、

ほんのりと優しく穏やかな表情。




「ただ、もう…この世界にいたいなって。」

「…。」


「…そう思ったの。」


彼女は微笑む。


私は…




嬉しい気持ちと、


『それでいいのか?』と問いただしたい気持ちになる。



「…お前は、」

抱きしめてしまいたい衝動を抑えて、私は言葉を紡ぐ。


「帰るんだ。」



決して、振り返らないように。


ここは彼女の幸せではないから。





End

近くにいてほしい。

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