短編

□猫と月
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ボリスが私の部屋に遊びに来た。

でも、なんだか様子が変だ。



「ボリス?」

「…アリス。」


視線は足元近くに注がれている。

なぜか、恥かしそうにモジモジとしている。



(…なに?)

猫のフィルターで見れば可愛いのだが、ボリスは男性だ。

あいにく、私にはボリスが可愛く見えない。


「なに?どうしたの?」

「あのさ。…ちょっと、恥ずかしいんだけど。」


ボリスは恥ずかしそうに俯く。



「う、うん。」

「俺、似ていると思ったんだ。」


突発的な彼の言葉に、思わず疑問を投げてしまう。


「…なに?」

何に似てると言うんだろう。

つい身構えてしまう。






「あんたと月。似てるよ。」

「は?」


月と似てると言われても、対応に困る。



(…どう言う意味なんだろう。)

ボリスは意外とロマンチストだ。





「月に似てるって、どういう意味なの?」

聞き返すと、

彼はぽわんとした眼で見つめてくる。



…メルヘンだ。

メルヘン街道まっしぐら。





「それは…まあ、色々。でも、月みたい見えるんだ。」

「へ、へえ。」


相づちをしてみるけど、意味は不明だ。

もう少し分かりやすいなら、頬でも染めるところだが。



(…えーっと。)

これは、どう反応して良いのか分からない。

内心、困っているとボリスが近づく。




「アリスは月みたいだ。白くて綺麗だし、一緒にいて落ち着くよ。」

「あ、ありがと。」


…嬉しい。


惜しげもなく、愛情を示してくれる。

そんな台詞をサラリと言えちゃうのがボリスだ。

笑いを誘わない。



「俺、月は好きなんだ。」

「…うん。」



擦り寄ってこられても、全然嫌じゃない。

間接的に「好き」って言われている気がする。



「アリス、好きだよ。」

「…うん。」


もしかしたら、直接的なのかもしれない。

気まぐれな猫。

その距離感は掴みにくくて、どこまでなのか判断が難しい。



End
月を好きな猫。

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