短編

□昼下がり
1ページ/1ページ







緑が多い、広大な森。

人影はなく、静かだ。



…警戒心がないのは、そのためなのかもしれない。



「…。」



樹木に寄りかかるようにして眠っていた少女。

そんな彼女を、俺は見つけた。

 

(…なぜ、ここにいるんだ?)


危ないと思う。

ここで動物が出現しないと限らない。



とにかく、起こさなくては。

俺はため息を吐きつつ、彼女の肩を揺らす。




それほど経たぬ内に、彼女は目を覚ました。

瞳がゆっくりと開かれる。



何処を見ているのか解からない。

ボーっとしていると思えば、

彼女の視線は、少しして自分の方に向いた。





眠たそうにトロリとした目。

まだ完全に目覚めていない様だ。



ぼんやりと視線を合わせている少女に、俺はため息を吐く。

 

「そろそろ自覚して、気をつけた方がいい。…君は小さいんだから。」



色々な意味を込め、その言葉を送る。

少女の小さな身体。

襲いに来るのは、動物だけとは限らない。



伝わったかは定かではないが、

後の祭りとなっては遅過ぎるのだ。



彼女の保護者ではないが、心配になる。

 

「…寝るなら家の中で寝たほうがいい。」 


…やっと目が覚めたみたいだ。


恥ずかしそうに顔を赤らめている。

うつむき加減の少女の頭。




こちらに謝ってくる少女。


なんだか、無償に撫でてあげたくなる。

そういう気分になった。



ポンポン

軽く触れるように撫でた。



顔を上げた彼女の顔は、不思議そうだ。

首をかしげている。



(…何をしているんだ。俺は。)

こういう行動をした後で、

自分の行動が不可解であったことに気づく。



何か上手いことも言えず、必然、沈黙になる。

それでも少女は嬉しそうに微笑んでくれた。






微笑んで、少し恥ずかしそうに感謝の言葉をくれた。

なんだか、くすぐったくなる。



「…ああ。」



可愛くて、小さい女の子。

いつ襲われてしまうか分からない。

だから、気をつけて欲しいと思う。



(…。)



そして、少しだけ気づいた。



…俺も動物と変わりない。





END

まるで蜂のように。

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ