短編

□少しの執着
1ページ/1ページ





「こんなに無防備なのって、アンタ以外にいないよな。」

 

彼女を見つけたのは、森の奥。

引越しがあった。

今、ここは森になっている。



きっと、遊園地のベンチで寝ていたのか。

森の奥で、彼女が寝ている理由は他に思いつかない。



(…それにしても。)



警戒心がない。

ピアスも傍に寄っていたから、元々そうなんだろう。

こんなに近づいても、起きる気配はなかった。



「…アンタなぁ。」



呆れながら、傍による。



すう… すう…



幹に背をもたれて眠っている女の子。

寝息が聞こえてくる。



俺が殺気を出していないから、

身の危険を感じていないのかもしれない。



ハートの国の時、彼女は帰るかもしれないと言っていた。



迷っていたけど、踏ん切りがついたんだろう。

この世界に残ってくれた。



それはよかったけど…



「なんだかなぁ…」



こんなに無防備だと、心配になる。



余所者である彼女は、か弱い。

武器も持ってないし、すぐに死んでしまう。



…ここで、他の連中が出てくるかもしれない。

引越しの後、どの連中が引っ越してきたのか分からない。



(俺は、行きたい所に行けるけど…)



俺はチェシャ猫。

迷わない猫。



その気になれば、どこでも行けるし、

生きていける。



他人にも自分にも、頓着していないつもりだ。

だけど…



例外がある。



「…。」



眠っている彼女の肩を揺らす。

それほど経たず、彼女は目を覚ました。





瞳が、ゆっくりと開かれる。

眠たそうにトロリとした眼は、まだ完全に覚めていない。



何処を見ているのか解からなかった目は、自分の方に向く。



「…起きないと、危ないぜ。」



俺の中で、

彼女は例外。




END
紳士な猫。

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ