短編

□帰ろう
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大通りを歩く。

前方に、見知った人物を見つけた。

赤い衣装は、遠くからでも目立つ。


エースと、ペーター。

二人は立ち話をしている。

まだこちらには気づいていないみたいだ。


絡まれると面倒になりそうだ。

というか、面倒になる。確実に。


(…逃げよう。)


二人が同時に会えば、大体争い合っている。

同僚のはずなのに銃撃戦だ。

遭遇して良いことはない。

よし、別の道に回ろう。



「あれ?アリス。」

「え?アリス?アリスですって?!」


(あ。)


見つかった。


「アーリースーーーっ」


見つかったと思った瞬間から、ペーターはこっちに突っ込んでくる。



「ぎゃー!」

「アリスー!!アリスじゃないですか!」

そのままドーンと抱きしめられた。

そんなに思ったほどの体当たりされなかったけど。



「アリスっ」

「なっ、なに?」


街中で抱きしめられるのは恥ずかしい。

視線が痛い。


「ペーター、離れてよっ」

「もちろん嫌です。せっかく会えたのに放すなんてっ」

ペーターは聞こえていない。

一人で舞い上がっている。


「アリスっ 愛しています。」

…相変わらずだ。

このウサギさんは話を聴いてくれない。

特に私との会話は成り立たない。



「やあ、アリス。こんな所で買い物?」


「…まあ、そんな感じよ。」



かろうじて、エースは会話できる。

でも、この騎士も問題だ。


「あはは。そっか。じゃあ、散歩じゃなくて、俺と旅に出ようぜ?」

「…今回は遠慮する。」

旅という名の迷子だし。


「エース君。何を言っているんですか。アリスが貴方なんかと一緒に行くわけないでしょう。」

「あはは。何言ってるのペーターさん。アリスだって、俺と旅に出たいって言う時もあるんだぜ?」

「…寝言は寝てから言って下さい。」


私に懐いている電波系の宰相も問題ある。

だけど、何を考えているのか分からない腹黒の騎士よりは安全だ。

まだ、身の安全は感じられる。






「二人はなんでここにいるの?」



街の中で赤い服装が二人並んでいると目立ちまくる。

一人はウサギ耳だし。

この世界は不思議だ。

ウサギ耳、動物の耳が普通にまかり通る世界なのだから。



「え? いや、何も?」

「エース君が帰らないから、女王陛下に怒られたんですよ。」



「…あー、それでペーターが出てきたのね。」

納得する。


「そうです。…アリスも一緒に帰りましょう? 帰って、僕の部屋でお茶にしましょうよ。」

「そうだね。それがいいよ。帰って、俺もそのお茶会に参加しようかな。」


「はぁ? 何で、あなたをお茶に招待しなきゃいけないんですか?」


「えー、冷たいなぁ。ペーターさんと俺って、同僚じゃないか。」

「同僚だからって、招待する義理もないですよ。」

「はは、本当に冷たいなぁ。ペーターさんは。 その血が本当に赤いのか、見てみたいんだけど。いいかな?」



エースは悪びれなく、いつものように爽やかに語る。

言っている内容は、ちょっと怖い。


「赤いですよ? あなたと打ち合いしても、何も意味がないんですけど…

むしろ、血の気が多すぎる貴方なら、その血は黒いのかもしれませんね。」





二人の手には、いつの間にかそれぞれ銃が握られている。

私のことなんて、二人とも考えていないのだろう。


「…ペーター。エース。やめてよ。」

さすがに止めた。


「打ち合いするくらいなら、さっさと帰りましょう。 じゃないと、ビバルディが怒るわ。」


ビバルディは、イライラして処刑してしまう。

二人が死なない程度に打ち合う時間と、兵士やメイドさんが命を落とす時間。


とにかく急いで帰ったほうがいい。


「じゃあ、帰ろうぜ。」

「…アリスが言うなら。」


二人とも銃をおろす。


やれやれ…

少し呆れてしまう。


「じゃあ、アリス。手を繋ぎましょう。その方が迷いませんよ。」

「あ、じゃあ俺も繋ごうっと。」

「…エース君。何してるんですかっ」

「何って、アリスと手を繋いでるんだ。」


両手が繋がれている。

そのまま二人は口論している。


「二人とも止めてよ。…なんか、恥ずかしい。」





「え?そうかな。」

「僕はエース君と一緒なのは不本意ですけど、嬉しいですよ。」





二人と手をつないで帰る。

どちらも手袋の感触だ。

それでも、自分の手よりも大きな手。



(…恥ずかしいけど、なんか…)


いいかもしれない。



普通そうにしていれば、二人とも気のいい友人だ。

そんなに悪い気もしない。


結局、私は二人のことは苦手…だけど。


そんなに嫌いじゃないと思う。



END

ツンデレアリス

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