短編
□隣で
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アリスと一緒に過ごして、同じベッドで寝ることも珍しくなくなった。
そして今も、アリスと一緒に寝ることになる。
まあ、添い寝するだけだ。
その前に、お互いの髪をすくのも日課になっている。
…
「ユリウスの髪って。なんでこんなに綺麗なの?」
初めは、決まってアリスが私の髪をすく。
ゆっくりとブラシをスライドさせていく。
「そうか?私は、あまり気にしていないが。」
少しのふれあい。
「…いいなぁ。綺麗。」
「…。」
髪をすかれる感触や、その空気が心地いい。
「ほんと、さらさら…。枝毛もないし。」
いいなぁ、とアリスの声。
私の髪に触れてくる手は優しい。
「…ユリウスが女の人だったら、怖いくらい最強だわ。」
「なんだそれは。」
髪を崩さない程度に、アリスは髪で遊び始める。
「…こんな綺麗な髪の女性なんて、きっと、誰でも振り返るでしょう?」
「そうなのか?」
同意を求められても困る。
髪が綺麗だとか、意識したことがなかった。
そして、振り返るだろうか考えたが、
振り返らないだろうという結論になる。
まあ、それは言わないでおくが。
「うん。綺麗な長い髪だし。…最強よ。」
くすりと笑いながら呟いて、アリスは遊んでいた髪を離した。
そして、またブラシを持ってすき始める。
一つ一つ丁寧に。
ゆっくりとすいてくれる。
「…。」
私の髪を大事に思ってくれているのだろう。
その手つきはひどく優しいものだった。
…
彼女がブラシを置いたので、
「…交代だ。」
声をかけた。
向き直ると、彼女は後ろを向く。
相変わらず、肩を出した服装。
寝る分には楽なのだろうが、目のやり場に困る。
髪を手にとると、見えなかった背中の部分も見え隠れする。
あまり気にしないように、髪をすき始めた。
「…アリス。」
「ん?」
「お前の髪は柔らかいな。」
自分とは異なるふわりとした感触の髪。
まっすぐに見えるのに、少しクセがある。
「んー、どうかしら。ユリウスの方がやわらかいんじゃない?」
アリスは自分の髪を掴んで指に絡める。
その時、
「…。」
「枝毛か?」
「…そうよ。」
枝毛を発見したらしい。
声がやや落ち込む。
私は変わらず髪をすく。
「もう。何でかしら…ユリウスの方が絶対長いのに、枝毛なんてないし。」
女のプライドみたいなものか。
アリスは髪を気にしている。
私は、髪に頓着がない。
だから、綺麗とか。
比較されても困るのだが。
「アリス…。」
「なあに?」
「私は男だからよく分からないが、お前の髪は好きだ。」
手をくしのようにして、指で髪をすいた。
指どおりのよい髪。
「触るのが気持ちいいし、この長さが丁度いい。」
何度か指で髪をすいて、指に絡め取る。
彼女の頬に赤みがさしているのが分かった。
後ろから見えるだけで、その表情までは分からないが。
「…ありがとう。ユリウス。」
お礼を言われるようなことを言っただろうか。
まあ、気分は良かった。
…
お互いの髪をすいた後、一緒のベッドに入る。
「おやすみ。ユリウス。」
「…ああ。」
向かい合う形で、目を閉じる。
あの目のやり場に困る服も、目をつむれば問題ない。
すぐに眠気がくると思ったが、アリスの様子が気になった。
まだ眠っているわけではないようだ。
「…アリス。」
「…ん?」
「眠れないのか?」
「…ええ。」
目を開ければ、アリスは私を見ていた。
でも、目が合うと少し下に視線を移す。
「…怖い夢でも見るのか?」
「…そうじゃないけど。」
彼女は少し見つめ、また視線をずらす。
ここではなく、どこか見つめる目。
元の世界の人物でも考えているんだろうか。
「…アリス。」
「ん?」
考えるな、と言うつもりはない。
ただ、あまり考えてほしくなかった。
彼女は余所者。
いずれ元の世界に帰るのだ。
いや、帰さなければいけない。
でも、今はこうして隣にいる。
「…こっちに来い。」
片手で彼女を引き寄せる。
手にかかった髪の感触。
胸に当たる、体の柔らかさ。
「ユリウス…?」
アリスは見上げてくる。
少し驚いているようだ。
「怖い夢なら見ない。私が守ってやる。だから…」
ただ同じ部屋に住んでいる同居人ではない。
とても大事な存在だ。
気にかけて、気になって。
手放したくない。
…私は矛盾している。
「こうしていてやる。…今は眠れ。」
そう告げると、アリスは少し嬉しそうに微笑んだ。
「…ありがとう。」
そして目を閉じる。
せめて夢を見ないように。
彼女の心が、何者にも囚われないように。
「…おやすみ。アリス。」
寄り添ったまま眠る。
この穏やかな時間をこのまま続けていけたら。
…と、そう思った。
END
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ひどく落ち着く。