短編
□昼寝友達
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お昼寝。
寝ているのを起こすのは忍びない。
…ちょっと可哀想だけれど、
でも起きて欲しい。
気持ちは分かるけれど、
この腕を放してくれないと動けない。
だから、起こすのは止めない。
…
「まだ…うぅ…眠い。眠い…よぉ…」
一人で寝ていれば、こんなふうに起こすこともなかった。
並んで昼寝を提案したのはピアスだ。
眠りネズミだからこそ、常に眠いらしい。
「起きて。起きなさいってば!」
でも、さすがにピアスは子供ではない。
幼い印象はあるけれど、私よりも背が高い男の子。
添い寝というのは…気を許しすぎたと思う。
ピアスは男の子だ。
友人とはいえ、異性と昼寝をするのはよろしくない。
「ピアス。ねぇ、ピアスってば。起きてよ。」
「…んんー」
ピアスはまだ眠ろうと頑張る。
ぎゅーっと目を瞑っているが、頑張らなくていい。
むしろ、素直に負けてほしい所だ。
往生際が悪いと段々遠慮がなくなる。
「手を離して。動けないから。」
ピアスの目が少しだけ開く。
(起きた?)
一瞬行動を止め、ピアスの行動を見守る。
目線は定まらず、ぼーっとしている。
「ピアス。寝ているのに悪いけど、腕を放して。」
腰にしっかり回された腕。
これでは身動きがとれないし、距離も近すぎだ。
「んー…このまま寝たら…あったかくて、よく眠れるのに。」
「わっ」
言葉も半ばにして、もっと引き寄せられた。
「ちょ。ちょっと!」
「おやすみぃ〜」
一方的な主張。
そのままピアスのあごが私の肩にのる。
密着度が増した。
「ぴ、ピアス。起きてよっ。」
腕の中。
ネズミと言えど男の子だ。
腕の力も、体格も違う。
「ぴ、ピアスってば!」
「…。」
暴れているのに、ピアスはどんどん眠ってしまう。
眠りの深い所に落ちて、聞こえなくなっていく。
じたばた暴れても、起きる気配がない。
「ピ、ピアス…ってば。」
体力も使いきり、息も荒くなってきた。
体を揺らしても、ピアスは起きない。
(…ネズミじゃなくてタヌキなんじゃないかしら。)
これでタヌキ寝入りだったら怒る。
…
寝息。
呼吸音が聞こえる。
体がゆっくり上下に動いて、体温は温かい。
「…」
すやすや眠っている、ねずみさん。
抱きすくめられてベッドの中だ。
この距離が、
私をドキドキさせる。
(…あ。なんだろう、これって。)
重たいとか、不満はいろいろあるけれど。
でも、ピアスのことは嫌いになれない。
恥ずかしい。
無駄に心臓がうるさい気がした。
顔に熱がたまる。
自覚してはいけない。
(…おやすみ。ピアス。)
何かを誤魔化しながら、目を閉じた。
「う…んっ」
寝言。
引き寄せられて、さらに近くなる。
(…ちょっと…危ないんじゃない?)
少し向きを変えただけでキスになる。
キスと言っても、ピアスが私の首にキスするだけ。
口ではないから、まあ。
…まあ、問題ないのかもしれない。
問題なのは、この距離だ。
至近距離すぎる。
とても動けそうにない。
「…離れなさいよね。」
ドキドキする。
けっこう力強い腕。
子供っぽくてもピアスは男の子。
女の子でもないし、完全に動物でもない。
そんなことは、分かっているつもりだったけれど。
心臓がうるさい。
顔が熱い。
(…なんで。)
なんで、こんな時に意識したんだろう。
恥ずかしい。
本当に穴があったら自分を埋めたい。
というか、落ちて死んでしまえ。
「…はぁ」
ため息を吐く。
ピアスの寝息を耳元に、目を閉じる。
状況は何も変わらない。
…頭がやられたらしい。
END
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ピアスは穴を埋める係。