短編

□昼寝友達
1ページ/1ページ



お昼寝。

寝ているのを起こすのは忍びない。

…ちょっと可哀想だけれど、

でも起きて欲しい。

気持ちは分かるけれど、

この腕を放してくれないと動けない。

だから、起こすのは止めない。






「まだ…うぅ…眠い。眠い…よぉ…」

一人で寝ていれば、こんなふうに起こすこともなかった。

並んで昼寝を提案したのはピアスだ。

眠りネズミだからこそ、常に眠いらしい。


「起きて。起きなさいってば!」


でも、さすがにピアスは子供ではない。

幼い印象はあるけれど、私よりも背が高い男の子。

添い寝というのは…気を許しすぎたと思う。

ピアスは男の子だ。

友人とはいえ、異性と昼寝をするのはよろしくない。


「ピアス。ねぇ、ピアスってば。起きてよ。」

「…んんー」

ピアスはまだ眠ろうと頑張る。

ぎゅーっと目を瞑っているが、頑張らなくていい。

むしろ、素直に負けてほしい所だ。

往生際が悪いと段々遠慮がなくなる。


「手を離して。動けないから。」


ピアスの目が少しだけ開く。

(起きた?)

一瞬行動を止め、ピアスの行動を見守る。

目線は定まらず、ぼーっとしている。



「ピアス。寝ているのに悪いけど、腕を放して。」

腰にしっかり回された腕。

これでは身動きがとれないし、距離も近すぎだ。



「んー…このまま寝たら…あったかくて、よく眠れるのに。」

「わっ」

言葉も半ばにして、もっと引き寄せられた。


「ちょ。ちょっと!」

「おやすみぃ〜」

一方的な主張。

そのままピアスのあごが私の肩にのる。

密着度が増した。


「ぴ、ピアス。起きてよっ。」

腕の中。

ネズミと言えど男の子だ。

腕の力も、体格も違う。


「ぴ、ピアスってば!」

「…。」


暴れているのに、ピアスはどんどん眠ってしまう。

眠りの深い所に落ちて、聞こえなくなっていく。

じたばた暴れても、起きる気配がない。


「ピ、ピアス…ってば。」


体力も使いきり、息も荒くなってきた。

体を揺らしても、ピアスは起きない。


(…ネズミじゃなくてタヌキなんじゃないかしら。)

これでタヌキ寝入りだったら怒る。





寝息。

呼吸音が聞こえる。

体がゆっくり上下に動いて、体温は温かい。



「…」


すやすや眠っている、ねずみさん。

抱きすくめられてベッドの中だ。


この距離が、

私をドキドキさせる。


(…あ。なんだろう、これって。)


重たいとか、不満はいろいろあるけれど。

でも、ピアスのことは嫌いになれない。

恥ずかしい。

無駄に心臓がうるさい気がした。

顔に熱がたまる。


自覚してはいけない。



(…おやすみ。ピアス。)


何かを誤魔化しながら、目を閉じた。



「う…んっ」


寝言。

引き寄せられて、さらに近くなる。


(…ちょっと…危ないんじゃない?)


少し向きを変えただけでキスになる。

キスと言っても、ピアスが私の首にキスするだけ。

口ではないから、まあ。

…まあ、問題ないのかもしれない。

問題なのは、この距離だ。

至近距離すぎる。

とても動けそうにない。


「…離れなさいよね。」


ドキドキする。



けっこう力強い腕。

子供っぽくてもピアスは男の子。

女の子でもないし、完全に動物でもない。

そんなことは、分かっているつもりだったけれど。


心臓がうるさい。

顔が熱い。


(…なんで。)


なんで、こんな時に意識したんだろう。

恥ずかしい。

本当に穴があったら自分を埋めたい。

というか、落ちて死んでしまえ。



「…はぁ」


ため息を吐く。

ピアスの寝息を耳元に、目を閉じる。

状況は何も変わらない。



…頭がやられたらしい。


END
---------

ピアスは穴を埋める係。

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ