短編

□波の上
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私のお嬢さんは、

曖昧の関係だ。



手に入れたいが、このままでも良い。

その気になれば強引にでも、

手に入れるのは容易だが。


他の誰にも渡したくない。



隣に立つ彼女は余所者。

同じゲーム盤には存在しない。



異例の駒。

この場にいても、何色にも染まらず。



その青い瞳に何を思うのか…

とても興味があった。







彼女を留まらせ、同じ時を重ねた。



隣で笑う少女。

まるで同じところに立っているような錯覚。



この世界では、ゲームが繰り返し始まる。

終わりのない道化。

無駄なもので満ちている。



だだ、彼女は唯一、

ゲームとは関係のない存在。



「お嬢さん…」



手を伸ばせば触れることのできる距離。



彼女は私のことが嫌いではない。

嫌いな男の部屋に、何度も来るような女ではない。



私は、彼女のことが気に入っている。

余所者で、私たちのゲームとは無関係の存在だからだ。



最初は単なる興味から始まったが、

私自身、飽きないのも珍しい。



さらり



彼女の髪をすく。



今では、存分に退屈を紛らわせてくれる。

時を重ね、彼女が溶け込むのは早かった。



「お嬢さん。」

「…ん。」



ソファーに腰掛けている少女。

目線は本に集中したまま、生返事を返した。



クスリと笑うと、それが気になったらしい。

ピクリと肩が震える。



「…なあに?ブラッド。」



「いや、紅茶のお代わりは?」

「…ん、大丈夫。」



それだけの会話で、彼女は本に目を戻す。

そんな少女の髪の毛を一房。

指先でからめる。



あまり引っ張ったつもりはないが、

彼女は気になったらしい。



私と目を合わせた。



「…退屈なの?」

「いや、違うな。」



クスリを笑い、彼女の髪をなでる。



…本当に、

不思議そうな顔をする。



「ブラッド?」

「…そうだな。気が変わった。退屈だよ。」



退屈を紛らわせたら、それでよかった。

執着しているつもりはない。



手ごろな暇つぶし相手…といったところか。



「お嬢さん。」

「なによ?」



「風呂に入らないか?」

「…は?」



一瞬冷たい視線。



「…本気?」

「ああ。」



信じられない…

言わずとも、彼女は目でそう告げた。



「私は本気だよ。」

「…。」



「君と一緒にいながら風呂にも入りたいし、酒も飲みたい。」

「…や、やめてよ。」



彼女の顔が少し赤くなる。

疑惑の目は少しだけ治まったが、



「私に、お酌をしてくれってこと?」

「ああ、そうだな。」



「…。」

「お酌をするだけ…とは言っていないが。」

「…あのねっ」



頬は赤みを増す。

そして、ますます複雑そうな顔をする。



困っているのが手に取るように分かる。



楽しい。

笑うと、彼女は不満げだ。



「…困らせて楽しいの?」

「まあ、そうだな。」



「…ふふ。いいじゃないか。」

「良くないわよ。」



分かっている。

私は歪んでいるな。



「大浴場も良いが、たまにはプライベートの風呂もいい。付き合ってくれ。」

「…遠慮する。」



「私は、君と入りたいんだ。」



逃れようとする彼女に触れる。

ピクリと震えた肩。



紅潮した頬。

目は合わせない。



顔を固定させ、指で彼女の髪に触れる。



「お嬢さん…?」

「…っ」



彼女はじっとしている。

私の目から逃げるように、目を伏せた。



そのまま手で頬に触れ、唇で頬をなぞる。



「…ん。」



ぴくりと、彼女のまぶたがふるえる。

耳たぶを甘くかんで、耳元にささやく。



「…二人きりだ。誰もいない。」



頭を撫でて、髪をすく。



さらり



やわらかく、暖かくて手触りがよい。



「…ちょっと、ブラッド。」

「たまにはいいだろう?」



ふわり、と体を持ち上げる。

彼女は混乱しているのかもしれない。



いつもは反論ばかりの真面目なお嬢さんだが、

今は目を白黒させている。



「な、何を!ていうか、何言ってんの。」

「さあ?期待していいぞ?」

「はぁ!?」



「ふふ。」

「…ブラッド。あなたって…」



「私は、したいことをする。」

「知ってる。けど、…訳が分からないわ。」



「そうだろう?では、お風呂までご同行してもらおう。」

「…嫌って言っても、する気でしょ。」



「そう、私は自分のしたいことをする。」

「…。」



「よく分かっているじゃないか。お嬢さん。」

「…そうね。」



うつむき加減の赤い顔。

不機嫌な横顔は、ぶつぶつ不満を言っている。



だが、抵抗なく腕の中に収まっている。

本当に、素直じゃないな。



また、笑みが零れた。





END

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