短編

□駆け引き
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アリスと知り合ってから、どのくらい時間が経ったか。



「アリス。」

「あ、グレイ?」



今思い返しても、

長かったような短かったような。

とにかく、あっと言う間だった気がする。




「今から休憩か?」

「ええ。あなたも?」

「ああ、俺も今から休憩だ。」




彼女が補佐に入り、

仕事を覚えてゆく過程で、彼女の本質が

素直でまじめで努力家であったことも好ましかった。


「よかった。今、ナイトメアに会ったけど、逃走中ではないのね?」

「…いや、本当は仕事が山のようにあるんだが。あの方は…」

「そうなの? …ごめんなさい。呼び止めればよかったわね。」

「いや、後で仕事をしてくだされば、何も問題ない。」

「そう?」


引越しに巻き込まれた当初、不安そうな彼女がだんだん落ち着いていく中で、

少しだけ距離が縮まってくることも嬉しかった。


「なあ、アリス、君も休憩なら…」

「?」

「一緒に、休憩しないか?」

「…いいの?」

「ああ。俺の部屋でいいなら。」


そして、今は恋人ごっこをしてくれる。

俺は戸惑いつつも、その申し出をしてくれた彼女が俺を選んだことが嬉しかった。



「グレイが疲れてないなら、
 …でも、本当に疲れてない?」

「疲れていない。君と一緒なら、疲れない。」

  クスリ、と笑う。

「…それとも君は、俺と過ごすのは…恋人の俺とは、過ごしたくないのか?」

「…っ。いいえ。過ごしたいわ。」


休憩時間、アリスは俺のところに来てくれる。

いや、俺が彼女を招いて…

俺が、部屋へ彼女を連れ込む。


「おいで、アリス。」

「…グレイ。」


部屋の扉を閉めたら、俺はアリスの背に腕を回す。

やんわりと抱き寄せて、その頬に口付ける。


「ん…」


ピクリ、と彼女の閉じたまぶたが動く。

少し緊張しているらしい。

彼女はいつも、恥ずかしそうにうつむく。


「こっちへおいで。」

「…グレイ。」


手が背中から腰へたどり、逃がさないように腰に回すと、

ピクンと体が跳ねる。

それをなだめながら唇を重ねて、軽くついばむ。

ちゅ、と音を立てたら彼女の頬が赤くなっていく。

それが少し楽しくて、何度も唇を吸い上げては音を立てた。

彼女の反応を楽しみながら、

やがて、彼女のゆるんだ口元に舌を割り込ませる。


「んんっ」

最初は驚いていたみたいだが、抵抗は感じられない。

しかし、突然すぎただろうか、と不安になる。

一度、口付けを留めて彼女の顔を見る。


「…アリス、大丈夫か?」

「…ん? うん、大丈夫。」


少しぼおっとした表情で、俺を見つめるアリス。

刺激が強すぎたのか、目が潤んでいる。

口付けていた唇が少し赤くなって艶めく。

とても魅力的だ。


「…そうか。」

再開、とばかりに舌を絡めた。

優しくして、ゆっくりとなじませていく。

…つもりだった。



「んっ…は」


その過程で、唇から漏れ出る声に欲情する。

じわじわと、優しくする余裕がなくなっていく。


「アリス…」

何度目かの口付けを味わった後、

唇をつけたまま、彼女の後頭部に手を添える。


「ん?…ぐ…れい?」

アリスは苦しそうに肩で息をしながら、

俺が何をするのか分からないなりにも応えようとしてくれる。


「アリス。」

上を向かせ、首筋に唇を這わせる。

体のラインにそって触れる。


「んっ…あ…ぐ、グレイっ」

「アリス」


名前を呼ぶ。

服の上から触れて、少しだけ我慢する。

唇以上の、これ以上の接触を求めてしまう自分を。




「…アリス。」

「グレイ…っ」


服の上から触れる手。

素肌の腕や首にキスをする。


「アリス。」

「グレイ、…っ。あ…」

そんな俺の行動を、アリスは目を白黒させながらも嫌がらない。

しかも、



「あのっ、服の上…じゃ…」

「…『じゃなくて』?」


クスリ、と笑みがこぼれた。

心底嬉しく思う。

彼女の顔が真っ赤になった。

言いかけた言葉が恥ずかしいらしい。

そんなことないのに…


「なら、ベッドに移動しよう。」

「あっ…」


抱き寄せてベッドに移動する際、

アリスは泣きそうなほど恥ずかしそうにしていた。


その頬にキスして、ベッドに沈み込ませる。


「グレイ…」


戸惑うアリス。

そんな顔も可愛くて、誰にも見せたくない。





END

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