□はじまりの朝
1ページ/9ページ

君とのはじまりの朝を、僕はよく覚えている


「江流、コチラは私の友人の真垓といいます」
江流の父、といっても養父にあたる峯明が、一人の男性を紹介した。
養父である峯明は世界のあらゆる取引を行う大霜寺グループを一手に取り仕切る社長である。
どういう好き心か江流にも計り知れないが、独り身で過ごして来たこの大きな存在は、生まれてすぐ孤児院に預けられていた自分を引き取り、息子として迎えたのだ。
そんな峯明が紹介した人物。
おそらく彼も大きな存在なのだろう。
「桜花グループを聞いた事があるでしょう?
真垓はそこの社長なんですよ」
「はじめまして、真垓様。江流と申します」
「お前が江流か。峯明から噂はかねがね。
あ、コッチは俺の娘の真生だ」
「はじめまして…」
精悍な面立ちの真垓の娘にしてはふんわりと愛らしい少女が彼の陰から顔をのぞかせた。
「可愛いですねえ。
真生、コチラに来て一緒にケーキを食べましょうね」
「ケーキ…」
峯明がケーキを手に手招きをすると興味を示した大きな茶色の瞳がくるんと見つめ、父親を見上げる。
少女の伺う瞳に、真垓は優しく頷く。
「真生、行ってこい」
「はい」
ぱたぱたと峯明に走り寄る真生のボブの髪がふわふわとその動きに揺れる。
たどり着くと、ちょこんと峯明と江流の間に座り、ケーキを受け取る。
小さな身体に大きな皿とぎごちないフォーク使いで少しずつケーキを口にする真生の姿は愛らしく
「6歳ですか。今からこんなに愛らしくては先が大変ですね」
「ほら、ウチはワケあって嫁とは別に暮らしてるんで、皆が甘やかすから幼くてな。
同い年でも江流はしっかりしてるから、余計に幼く見える」
彼女の魅力にすっかり目尻を下げる峯明に、向かいに座る真垓は困った様な笑みを浮かべた。
(確かに小さいし…)
人形のような可愛らしさだと
無意識に江流もそんな彼女を見つめる。
その視線に気づいたのか
「…?」
ふいと大きな瞳がくるんとコチラを見つめ返す。
(わ…)
ふわふわの柔らかそうなボブの髪
白い肌に林檎のように赤い頬
そしてーーーーー吸い込まれそうな大きな澄んだ瞳
江流の考える「女の子」そのままの少女が目の前にいる。
「…」
しばらく真生は不思議そうに見つめていたが
ふと自分の皿の上のケーキから苺を1つフォークに取る。
「江流、苺好きですか?」
「えっ?」
「真生は苺好きです。
真生の苺、1つあげます」
「えっと…真垓様…」
「へえ…そう来たか」
やり取りを一部始終を見ていた真垓はニヤリと微笑む。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ