□それだけ
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秋の訪れ。

桃源郷には「秋恋節」という秋の風習がある。

「ああ、今年もこの季節がやって来ましたね」
宿の外の喧騒に八戒がふっとそれに気付いた。
「秋恋節ですか…」
「秋恋節って何?」
鶺鴒が同じようについと外を見、悟空は首を傾げる。
「まあ、俺ら女っけない旅してきてたからな…」
煙草を咥えたまま悟浄が窓の外を眺め
「お祭りの賑わいね。楽しそう」
それに真明も続いた。
「ねー!秋恋節って何?」
「秋恋節っていうのは風習なんだけど、男の人が女の人に贈り物をするお祭りね」
悟空の疑問に鶺鴒が答える。
「女の人に身につけるものを送るのが習わしなのよ。
日頃お世話になってる人とか、好きな人とか…自分の気持ちを伝える日なの」
「へー!
じゃあ今年はオレたちもやんなきゃ!」
「そうですね。今年は真明も鶺鴒さんもいる事ですし」
「おい、てめぇら何を騒いで…」
「三蔵!秋恋節やろう!」
「…は?」
皆の騒ぎに部屋から降りてきた三蔵は悟空の突拍子の無さに度肝を抜かれる。
「何をいきなり…」
「だって真明と鶺鴒には世話になってるから!」
「日頃の感謝の気持ちを伝えようって事で」
「たまにはそーゆうのもいいんじゃねーの」
男3人の勢いに気圧され
「ね、玄奘!私お祭りを見てきてもいい?」
キラキラとした真明に大きな瞳で見つめられ
「玄奘三蔵…秋恋節の意味、お分かりですね?」
不敵な微笑みを鶺鴒に向けられ
「…勝手にしろ」
そう言うしかない三蔵であった。











幼い頃は贈り物なんてタカが知れていて
『江流、今日は秋恋節ですね』
光明三蔵法師がニッコリと微笑む。
その師に江流は呆れたような視線を向けながら庭の掃除を続ける。
『お師匠様…ウチは僧寺ですよ』
『ふふ、そうなんですけどね。
ほら、あげれる歳になったなあと思ったんですよ』
『ああ…』
江流の脳裏に1人の少女が思い浮ぶ。
『同じ人を思い浮かべましたね』
『…』
『江流、秋恋節の起源を知っていますか?』
『いえ…』
『ではいい機会ですからお話しましょうか』

秋恋節とはねーーーーーーー

『真生!』
『あら、江流じゃない』
草原の丘で真生の姿を見つけて江流は駆け寄る。
『父様に何かご用?』
『そうじゃなくて…』
切らせた息を整えながら紫の瞳を戸惑わせる江流に真生は茶色の大きな瞳をぱちくりとさせる。
『これ、お師匠様から』
『光明様が?』
小さな箱を手渡され不思議そうに開けると…
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