□悪戯
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今でもまだ夢に見る

君と離れたあの日の事

『憐天経文守護の為…慶雲院を退出致します…』

『真明三蔵法師様のお噂を聞いたか?』
『三蔵法師様としてご英断であられる』
『だがあのようにお美しい女一人身で…』
『いや、むしろ玄奘三蔵法師様との過ちを起こさぬ為に…』

様々な憶測に囲まれながら

その手を解いたんだ

心の何処かに潜んでいる

『このままでは許されぬまま結ばれる』

危うさを封じたくて


でも解いてしまうと
一層その存在を求めて恋しく
気付けば西ばかり見るようになっていた


今宵の一宿の窓は
慶雲院の窓を思い出す。
街までたどり着くには距離があり
急遽近くの寺院を訪ねたのだ。
三蔵法師を、しかも2人も迎えるというのは類稀なる誉で
すんなりと僧たちは受け入れた
だが、ここは仏に仕える者達の住まう場所
肉欲など当然除外視され、真明とも部屋を分つ。
思えば
(…少し前迄は…これが『当然』だったな)
いつの間にか彼女を腕の中に抱き求め
眠るのは当たり前になっているこの身体
三蔵法師としての『当然』ではなく
一人の男としての『当然』が無い事に物足りなさを感じる
(…所詮、ただの『江流』か…)
自嘲気味な笑みの唇に煙草を咥える
これすらもこの場では許されぬ事。
だが、今はコレでもないと
求め過ぎてーーーーーー気が狂いそうだ
(…もし)
あの時
こんな状況で
彼女の腕を取り、無理矢理にでも犯していたら
今は、どんな時を迎えたのだろうか?
欲望のキワに浮かぶ危険な発想が
この部屋へ自分を繋ぎ止める鎖

狂気じみた独占欲

なのに

『固定観念』は時に残酷

コンコン…

「…」
慣れた気配が扉を叩く。
思わずまだ見ぬ姿に眉間を抑えて溜息が漏れる。
(…っ人が折角…!)
たった一夜と、『我慢』を重ねていたと言うのに
「江流…」
扉が開き、隙間から鳶色の瞳が覗く。
同時に柔らかい同色の髪が揺れた。
「どうした…」
「ん…あのね」
極めて平静を装って声を投げかけるとスルと部屋の中に入り、そのままストンと三蔵の立つ窓の横のベッドに座り瞳を向けた。
「ここ…慶雲院を思い出すわ」
「…」
「そう思ったら…江流と離れてしまうみたいで」
とても怖くなったの
真明は最後の言葉を恥ずかしそうに小さく呟く。
同じ事を考えていた
だとしたら…
「真生、お前は『あの時』…どう思っていた」
「…私は…『あの時』ちょっといけない事を思ったの」
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