□金木犀
1ページ/2ページ

この季節になると

君の薫りを待ち望む




「玄奘三蔵法師様、書簡が届きましてございます」
「あ、真明から?!」
「がっつくな」
慶雲院に届いた書簡に悟空が駆け寄る。
「なあ、三蔵何て何て?!」
開いた書簡からはフワリと花の香りが浮かんだ。
「あ、真明の匂いだ」
「金木犀か」
「オレ、この匂い大好き」
スーッと書簡の香りを嗅いで悟空は目を細める。
「真明…会いたいなぁ」
「…そうだな」
「三蔵?」
書簡に目を通しながら素直な返事が返り、悟空は少し驚く。
ぽとっ…
書簡から小さな橙の花が1つこぼれ落ち
三蔵の指がそっと摘む。
「アイツ…何処で書いてるんだ」
文面を追えば
彼女の寺では金木犀が咲き乱れているらしい。
「俺のことは書いてる??」
「うるせぇな…
『悟空には催事で作った飴を送ります』だと」
「わぁ!!飴ー!!」
一緒に同封された紙袋をポイと放ると喜んでそれを持って行ってしまう。
それを見送って三蔵は再び書簡に目を戻した。
そこにはこちらの身を案じる内容や
あちらでの出来事
そして幼馴染を恋しく思う気持ち
女性らしい、柔らかな筆記体で書かれている。
「…真生」
紫の瞳は西を眺めた。


「真明三蔵法師様、書簡が届きましてございます」
「玄奘からだわ」
尼僧から書簡を受け取り、真明はその文箱を開ける。
フワッと金木犀の香りが部屋に浮かんだ。
「慶雲院も金木犀が咲いてるのね…」
懐かしい風景を思い浮かべ真明の茶色の瞳が細められる。
書簡にはこちらの身を案じる内容や
悟空の近況
そしてーーーー慶雲院へ戻ってこいとの誘い
流麗な文字に彼の煙草の香りがかすかに薫る。
「江流ったら…相変わらずね」
クスクスとこの場にいない幼馴染に思わず笑いがもれる。
ふと
「?」
カタンといつもの書簡の下に何かを見つける。
「まあ…」
そこには小さな小瓶。
中には乾燥させた茶葉らしきものが見える。
「懐かしい!これ、光明様がよく作ってくれた金木犀のお茶…」
いそいそと湯を用意し、茶器に茶葉を浸す。
部屋中に甘い香りが広がり
真明はほっと息をつく。
「結局コレだけ、作り方が分からないまま…
江流、作り方知ってるんだ」
スッとその視線は長安の方へ向けられる。
「江流…会いたいなぁ…」

離れていても

君の事は頭から離れず

どうすれば喜んでくれるかなんて考えて

こうやって筆を取り合う



フワリと立ち上がる湯気に
「あ…」
真明はそっと部屋を覗く
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ