□dreamboat
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いつもの時間。
いつものように。
あの笑顔は僕へ向けられる。


「ああ、来ましたか」
気配を感じて師が立ち上がり障子を開ける。
「いらっしゃい」
光明三蔵法師は中庭に立つ人物達ににこやかに声をかけた。
「光明、これ頼まれてたやつだ」
「有難うございます」
匂い立つ金木犀の枝を真光三蔵法師は手渡し江流に視線を移す。
「少し間が空いたが、どうだ?法力の方は」
「はい。お聞きしたいことがいくつか」
「じゃあ、始めるか」
「はい」
「とうさま…」
「ん?」
真光三蔵法師の法衣の裾陰から
妖精のように愛らしい少女が顔を出す。
「真生も江流とお話したいです」
「…だってさ」
「真生、裏庭に秋桜が咲いた。
後で一緒に見に行こう」
「うん!」
「さあ、真生はお菓子を用意したのでお上がりなさい。
たまには私も相手してくれないと寂しいですよー?」
「はい、光明さま!」
たたっと階を駆け上がり
光明の膝の上に収まるのは真生の定位置。
「光明の方が真生を溺愛してるなあれは」
「ええ。いつも楽しみにされているようで」
「お前は?」
「はっ?」
不意を突かれたというように驚いた顔のまま真光を見上げる。
それを心底可笑しそうに真光は更に問う。
「お前はどうなんだ?」
「…それは真光様の事で?」
「んなわけ無いだろ」
「…そうですね…
この前まで姿を見なかったもので」
つい先日まで真生は風邪を引き、金山寺には姿を見せていなかった。
「でも…安堵しました」
「素直じゃないな、お前は」
「何ですか急に」
ポンポンと金糸の頭に真光の手が置かれ
江流は照れ臭そうに横目で見やる。
江流は齢七才にしては悟りすましており
それに違和感の無い程、法力・武術共に天賦の才を見せてはいるが
時折見せる年相応の少年の顔がアンバランスさを醸し出す。
特にーーーーー真生の事となると。
「真生がこの前嬉しそうに見慣れない数珠玉を持っていたから聞いたらお前から貰ったってキラキラした目で言ってたぞ?」
「あれは真生がどうしても離さなかったんです。
あんな大きな目で見つめられては…」
「…すっかり骨抜きだなそれ」
「…あの、誰のせいだと思ってます?」
クスクスと型なしの江流に始めるぞと声をかけ真光は再び中庭に降りて行く。
一定の己を認めたその態度がくすぐったく
江流も緩みそうな頬を引き締めてその後に続いた。

本日の稽古を終え
「さあ、2人共ゆっくりして下さい」
光明が真光と江流にお茶とお菓子を振舞う。
「江流」
稽古が終わったと分かる真生は
光明の膝の上から立ち上がるとパタパタと江流の元に向かい、その横にちょこんと座る。
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