□こっち向いてBaby
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茶色のふわふわの髪に
同じ色の大きな瞳
久し振りに見た白い肌は汚れを知らなくて

一目で「欲しい」と思った。

偶然。ただ偶然と。
思い出したふりをして
本当は
1日だって君を想わない日はなかった。


「江流」
「…お前、少しは危機領域を持て」
三蔵の部屋を訪れ、ベッドに横になっている彼の紫の瞳を茶色の瞳が覗き込んでくる。
「まあ、今更ねえ…」
クスクスと鈴を転がしたような笑い声が耳の意識を奪って
その白い手が運んで来た茶器を用意しだす。
(…全く)
いくら幼馴染とはいえ
子供の頃とは訳が違う。
月日は経って
今や『男女』という対象なのだから。
それとも
(…そう思っているのはーーーーーー)
「…真生」
「何?」
真明が顔を上げると唇が触れ合う。
「?!」
一瞬触れた体温が離れ
白い頬は一気に上気した。
鳶色の瞳は恥ずかしさから視線を逸らそうとするが
お互いの距離は三蔵に詰められてそれはかなわない。
「あ…どうして…」
「お前があまりにも警戒レベル0なんでな。
人の事をなんだと思ってる」
「なに、って…」
「『ただの幼馴染』だけのつもりか?
確かに今までもこれからもそうだろう。
…でも」
フッと言葉が途切れ
心配になって直視した真明が見たのは切ない色の美しい紫。
「『あの頃』と今は…違う」
「…」
「お互いに成長すれば、嫌でも性別の壁は出来る。
…お前は『女』なんだ。ソコは自分で守れ」
「私…」
切ない息と共に告げられる言葉に眉を下げて花のような唇がキュッと結ばれる。
それを了解の印とみた三蔵は彼女から離れると煙草に火をつけた。
好きでこんな事を言っているわけではない。
彼女の為ーーーーーそして自分への楔
本当はお互いにお互いをどう想っているか
そんな事は百も承知で
それでも越えない線。
いつもの彼女なら大人しく理解し部屋を出て行く
そう思っていた。
「江流…」
その顔を見れば意志が崩れてしまいそうで向けていた背にそっと寄り添ってくる体温。
視線を待たぬまま真明は切なそうに声にする。
「江流…好き」
「…っ」
(ダメだーーーーー)
全て、取り払われてしまう。
何度も告げられてきた言葉。
その想いの深さを痛い程分かっていて
そしてーーーーーー自分も
「…あげる」
「…」
「江流…全部あげるから」

こっち向いて

小さく、泣き出しそうな声で口にする言葉。
逸らされる事を距離と感じたその一言は強い言霊で
ガラでも無い早鐘を胸が打つ音が耳にうるさい。
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