□blast
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陶器の割れる音が響き渡る。
それは幾つも幾つも続き
「かっ…観世音菩薩様!」
「どうした?そんな猫騙し食らった顔して」
「そのようにのんびりと…!」
焦ったように駆け寄ってくる二郎神に
観世音菩薩はまだ間延びしたような表情のまま。
「月天心様の御気色がお悪く…」
「…なる程な」
自分の部屋の方を眺めて
黒曜石の瞳を引き締める。
入り口に立つと

ガシャーン!!

すぐ顔の真横を花瓶が通り過ぎた。
「おーおー…荒れてるな」
「観世音…」
ギッと睨みつける金色の双眸。
銀色の美しい髪は乱れ
怒りの為か白くさえ感じる。
「妾から真生を奪ったばかりか…
我が娘からも赤子を取り上げるとは!!
だから天界など…!!」
「落ち着け月天心」
「落ち着いてなどおれるか!
今度という今度はそなたの花娘などやめてくれるわ!」
「そう言うなよ。
…俺が行ってくる」
「そなたが?」
「そりゃあお前の娘とあってはな」
片手に収めるのは
「憐天経文…」
「回収隊が持ち帰ったものだ。
…だが魂がどこにもないんだよ」
「真生は…真生は無事なのか?!」
経文の回収が示す意味とは
即ち彼女の命がーーーーー
「そんなことになったら…許さぬ!絶対に許さぬ!!」
「だから落ち着け。…大丈夫だ」
母として取り乱す月天心の背を観世音菩薩はそっと撫でる。
「おそらく身体に残っているか…或いは赤子と融合したか」
「何と…」
「赤子の魂は消滅したと報告されているが、実際に見た訳じゃねえみたいだしな」
「観世音…」
ゆっくりと白い手がすがるように腕を掴み
金色の瞳に涙が溢れた。
「頼む…真生を…
あの子は幸せにならねばならぬのだ」
「分かってる…俺に任せておけ
…お前が1番よく知ってるだろ?」
頬の涙を拭ってやり
必ず成し遂げる光を宿す。
「俺に不可能はない」



身体から一部が失われる感覚。
これは即ち消失ーーーーーーー

「…っう」
「どうしました、三蔵?!」
胸を抑え瞳を歪める三蔵の様子に
凰流は全てを理解する。
「…真明の波長が消えてる」
「!!」
「神殿に向かう前に玄奘は真明と何かしてなかった?」
「…何か、ですか」
問われた八戒はしばらく考え
「!確か生気の交換を」
「だろうね…一部だろうから玄奘自体は心配ないよ」
「じゃあ…」
「そう、確かに自分の一部が消失するんだからそこそこ痛みは伴う。
…だけど」
真っ直ぐ前を見つめながら
凰流の瞳は三蔵と同じ感情を灯す。

「それ以上に…今彼は『喪失』してるんだ」
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