□embrace
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ほろほろと頬から溢れる雫。
それを思わせるーーーーー雨。
「雨…ですか。気が塞ぎますね」
「三蔵は?」
「主はお部屋に」
「1番滅入ってるのは三蔵かもな」
4人は宿の食堂で食事を囲んでいる。
気がつけば随分と西域も奥へ進んできた。
真明を失ってから月日は半年を過ぎ
彼女の帰りを待ちながらも
一行は牛魔王蘇生実験の阻止の為、旅を進めている。
「この半年…三蔵は気丈に過ごしてますね」
「はい…時折真明様を夢に見る事もあるようで…」
「愛しい女と子供を失ったんだ。
…俺なら気がどうにかなりそうだわ」
「真明…まだ帰ってこれないのかな…」
「悟空…」
箸を置いてしゅんとしてしまう悟空。
1日1日を「もしかしたら」と過ごす。
「…一度魂が抜けた身体ですから…時間がかかるのかもしれませんね」
「そうだな…」
悟空の気持ちに起因するように
悟浄と八戒も自分の気持ちを落ち着かせようと言い聞かせるように呟く。
「三蔵は…前にも増して経文を取り戻す事にストイックになりましたし」
「うん。何か真明と鶺鴒が来る前は当たり前だと思ってたけど…」
「そうでもしねーともたないんじゃないか?
…俺だって何か他の事考えてねーとツライし」
「それだけ真明様が大きな存在だったって事ですね…」
はあ…と同時に溜息が浮かぶ。
「真明…早く帰ってこないかな…」
悟空の一言は皆の想いを代弁するものだった。



天界。
蓮の池の周りを美しい衣の裾を手繰りながら歩く姿がある。
「下は今日は雨なのね…」
がっかりとした声が浮かび
残念そうに眉を下げる。
「江流…大丈夫かしら…」
愛しい者の身を思い出し
映らないとは分かっていても池を見つめてしまう。
「よお、真生。どうした」
「観世音菩薩様」
「お前えらく天界ではモテモテみてえじゃねえか」
「毎日色んな方からお文を頂くんですが…でも」
「心はアイツの元って事だろ?」
「…はい」
現に真生の元にはその隠れた存在を知って
様々な神仏から求愛の手紙が届く。
天女としてもひけを取らないその容姿がじわじわと彼らの口にのぼり
(このままいくと…知られちゃなんねえとこに知れるかもしれんな…)
そろそろ元の世界に返してやるべきかもしれない。
「そろそろ下界に降りるか?」
「よいのですか?」
「身体も魂としっかり繋がったみてえだし…もう大丈夫そうだ」
「江流に…会えるんですね」
待ち続けた時が訪れる事に
高鳴る期待と喜びを抑えようと真生は胸に手を当てる。
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