□それだけ
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『わぁ』
小さな虹色の水晶玉が1つ。
『とてもキレイね!これを私に?』
キラキラと光にかざし嬉しそうに江流に尋ねる。
江流は頷き
『今日は秋恋節って知ってるか?』
『秋恋節?』
『女性に男性が贈り物をする日なんだ』
『そうなの…光明様が私の事を女の人って認めて下さったのね』
目を細めて両手で水晶玉を大切そうに見つめる。
『真生、その水晶玉を少し貸してくれ』
『?うん』
差し出された手の上に素直に水晶玉を渡す。
それに小さな金具と白い花のモチーフが付けられて…
『これは俺から。
これで身につける事ができるだろ?』
『江流、とても素敵ね!有難う!!』
耳飾りに変身した2つの贈り物を驚きと嬉しさで一杯になった笑顔が見つめてくる。
『ねえ、それ、私に着けて!』
頬にかかった髪を耳にかけながら真生は江流にねだる。
頷き、小さな耳に着けてやるとーーーーその耳元にそっと告げる。
『真生、俺が大人になったらーーーー』






(その夜…江流の寺が襲われたんだ…)
耳飾り見つめながら真明はぼんやりと考える。
幼い頃の、最初で最後の秋恋節。
(あの時の言葉なんて…もう覚えて無いわよね)
真生にとっては大切な思い出でも
江流にとっては師を亡くした悲しい思い出かもしれない
「真明様」
「鶺鴒、どうしたの?悟空とお祭りに行ったんじゃ…」
「はい、これを悟空から貰いました」
鶺鴒は嬉しそうに首から下げた硝子玉を見せる。
「まあ、素敵なものね!」
「はい!…それで、秋恋節は男性から女性にという事なんですが…」
少し恥ずかしそうに木の箱を差し出す。
「私から真明様に日頃の有難うございますを伝えたくて」
「鶺鴒…」
「開けてみて下さいな」
もどかしく木の箱を開けると…
「素敵…」
中から白を基調とした桜色の帯が顔を出す。
「貰っていいの?」
「はい、身につけて下さいまし」
「有難う」
嬉しそうに帯を解いて鶺鴒の帯に結び変える。
「どうかしら?」
「とてもお美しゅうございます。法衣にも合う色かと思いますわ」
「鶺鴒ーもう入っていいー?」
「悟空?」
「忘れてた…いいわよ」
鶺鴒の声に悟空が入口から顔を出す。
「あ、やっぱりよく似合ってるなその帯!」
「有難う悟空」
「じゃあオレからはコレね!」
「悟空からも?」
「うん!いつも有難うな!」
掌の上に桃色の硝子の小さな帯留が載せられる。
「可愛い!」
「その帯に合わせたんだ」
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