□金木犀
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「やっぱりこの香り…」
茶器を手に取り薫りをスーッと吸い込む。
「金木犀のお茶!!」
「…お前、呼んでも来ねえくせに、この匂いは呼ばなくても来るな」
「大好きなんだものこのお茶。
光明様がね『このお茶は真生の為に作ったんですよ』って言ってくれたもの」
「…まあ、間違ってねえが」
「今だにこれだけは作り方は分かんないのよね…江流は作れるのに」
「弟子だからな」
そこに本音はのせず三蔵はゆっくりと注ぐ。
「ふふ、今年も美味しい」
「少し甘い。微調整が必要か…」
「あら、私は好きよ?」
ニッコリと微笑む。
その笑顔を見たくて

『お師匠様…』
『おや、どうしました?江流』
『金木犀茶の作り方を、教えて頂けませんか?』
『真生に作ってあげるんですね?』
『…はい』
少しはにかんだ江流に光明三蔵法師は読んでいた書を閉じて彼を見る。
『利己的、でしょうか?』
『好きな女の子の笑顔を見ていたい事がですか?』
『…っ、お師匠様』
『江流もお年頃になったという事ですねえ…ああ、これは嬉しい事です。
丁度金木犀の見頃ですし、作りましょうか』
『はい』

(やっぱり利己的かもな)
これは君の薫りで
その薫りを自分のものにしたくて
「茶かお前の匂いか分からなくなって来た…今日は終いだ」
「きゃっ…」
真明の腕を取り抱き寄せると
金木犀の薫りが彼女の動作にそって香り立つ。
「…やっぱり甘いのはお前だな」
「そう?飲んでみる??」
「ほおー?随分と積極的な事だ」
「あっ、そういう意味で言ったんじゃ…ないっ…て」
ソファの上でゆっくりとその身体を捉えて素肌に触れる。
その身体の蜜には敵わない。
「やっぱり本物が1番だな…」
「?…何?」
「何でもねえよ」

君に喜んで欲しくて作る金木犀の華茶

本当は

その全てを飲み干したくて

作っているのは

君には秘密







金木犀・了
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