ss book

□お天気雨
1ページ/1ページ



 あんたのその、怒りで歪む顔が、俺は大好きだよ。



「──何故あんなことをした」
「……………、」
「言わねぇかッ!!」



 黙っていたら、突然重い衝撃を感じ、体が転がった。腹部の痛みに、蹴られたのだと理解する。



「…ゲホッ、オ゙ェ…ッ」



 胃液が食道を競り上がり、喉を焼く。しかし唾液と胃液以外の何かが出てくる気配はなく、そういや何も食ってないなぁ、と暢気に考えた。
 じゃり、とした音に視線を向ければ、それはたった今俺を蹴った足だった。



「もう一度聞く。何故あんなことをした」



 口を開いたが、ヒュ、と喉が鳴るだけだった。そういや何にも飲んでない。そりゃ喋れねーわ、と口を閉じた。



「──言う気はねぇみてぇだな」



 ちげーよ馬鹿、喋りたくても喋れねーんだよ。三日も飲まず食わずで居させたのは、何処のどいつだっつーの。



「なら、…観念しろ」



 見上げれば、太陽を背にした影がゆっくりと動き、真上に掲げた刀がキラリと太陽光を反射した。
 しかし、すぐに下ろされると思ったそれは、其処でピタリと止まったまま動かない。

 息を吸う。
 ヒュ、と喉が鳴った。
 ポタリ、と何かが頬に落ちて、そのまま頬を伝い口内へ入った。なんだろ、しょっぱい。雨だろうか、空はあんなにも晴れてるのに。



「──俺はテメェを、弟のように思ってた…!」



 震えているように聞こえた声。しかし降り下ろされた刀で、思考を断ち切られた。



それにしても、晴れてる日に降るしょっぱい雨なんてあっただろうか。




#090314 aruku


[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ