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□お天気雨
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あんたのその、怒りで歪む顔が、俺は大好きだよ。
「──何故あんなことをした」
「……………、」
「言わねぇかッ!!」
黙っていたら、突然重い衝撃を感じ、体が転がった。腹部の痛みに、蹴られたのだと理解する。
「…ゲホッ、オ゙ェ…ッ」
胃液が食道を競り上がり、喉を焼く。しかし唾液と胃液以外の何かが出てくる気配はなく、そういや何も食ってないなぁ、と暢気に考えた。
じゃり、とした音に視線を向ければ、それはたった今俺を蹴った足だった。
「もう一度聞く。何故あんなことをした」
口を開いたが、ヒュ、と喉が鳴るだけだった。そういや何にも飲んでない。そりゃ喋れねーわ、と口を閉じた。
「──言う気はねぇみてぇだな」
ちげーよ馬鹿、喋りたくても喋れねーんだよ。三日も飲まず食わずで居させたのは、何処のどいつだっつーの。
「なら、…観念しろ」
見上げれば、太陽を背にした影がゆっくりと動き、真上に掲げた刀がキラリと太陽光を反射した。
しかし、すぐに下ろされると思ったそれは、其処でピタリと止まったまま動かない。
息を吸う。
ヒュ、と喉が鳴った。
ポタリ、と何かが頬に落ちて、そのまま頬を伝い口内へ入った。なんだろ、しょっぱい。雨だろうか、空はあんなにも晴れてるのに。
「──俺はテメェを、弟のように思ってた…!」
震えているように聞こえた声。しかし降り下ろされた刀で、思考を断ち切られた。
それにしても、晴れてる日に降るしょっぱい雨なんてあっただろうか。
#090314 aruku