鈴カステラ

□ある昼下がり…
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「ふぁあ……眠いのだわ」


ひとあくびのドールが一体

真紅はただ今、ジュンの隣、つまりはベッドの上にいた。

真紅のマスター、いやミーディアムのジュンはいつものごとく学校の勉強の遅れを、少しでも取り戻そうとどうやら数学の本を読んでいるようだ。

しかしジュンが読書をしていたりすると、真紅もたいてい本を読んでいるので、今日という日は希だった。

黙々と読書をしているジュン。


真紅も普段、ジュンを奴隷扱いをしているのであるが、熱心にジュンが『ベンキョウ』をしているとなると、罪悪感があるのか、話し掛けてはいけない気がした。

しかし真紅は暇で暇で仕方がなかった。

眠る時間までまだ40分もある。

はやく読んでしまわないかしら、とジュンの方をちらりちらりと見る。

ジュンはそんな真紅の姿が目についたのか読みさしの本をパタンと閉じた。

見られている、と集中できない気が散る、なんて口が裂けても言えない……


「何だよ。」

真紅は邪魔したのかしら、とちらっと思ったが、暇を潰せる機会をさいてくれて嬉しかった。

自然と口が開く。

「ねぇ……ジュン、何を読んでいるの?」


「数学の本。」

真紅に見えるよう右手で軽く差し出した。

「スウ…ガク?熱心に読んで…面白いの?」

『数学』の意味は分からなかったが真紅は差し出された本を受け取り、パラパラとめくってみた。


「面白いかよ?」

はっ、と鼻で笑うジュン。

「そうね、私には分からないのだけれど……これなら」


真紅は本を逆さまにしてみたり、横から見たりしている。


「本の虫はどこにいるのかしら……?」


「ぷっ!!!」


プククク…と思わず笑いを堪えることができないジュン。

何がなんだか分からなかったが自分との会話でいきなり笑われ、それが自分だけ分からないのが真紅にとってこれ以上腹立たしいものは無かった。


ぴしゃり!


そう考えるより体が勝手に動いた。


体というより、髪の毛ウィップが……

悲鳴をあげるジュン。

「ぎゃああ!な、何すんだよ!!」


「レディとの会話に品のない笑い声は必要ないのだわ。あと、叫び声もね。」

真紅はさっきムッとさせたこの本をパタンと強く閉じ、ジュンが品の有る笑い方って何だよ、などと呟いているのを横目で見ていたが、あえてスルーした。


「ねぇ……ジュン。」

本をジュンに返すと、
真紅は話を切り替えた。

「もう‘本の虫’探しは終わったのか?」

子供をあやすかのように、真紅をなだめるジュン。

「そうね、ここにはいないのかも。ジュン、これより面白い本はないかしら?」


そんなこと言われてもなぁ、と渋々、通販の箱をどかして自分が幼い頃読んでいた絵本が並んだ本棚を見た。


そして、あったあった、と本を取り出すのである。

「それは……」


真紅も驚くほど、その本はホコリを被っていた。
題名も見えない。
ジュンはそのホコリをパンパンと横に払うと、開いて中を確認した。


「うんまだ読める。何歳の時読んだんだろ」

真紅はぜひ本を見ようとジュンに寄り添った。

「どんな話なの?」


「そうだな〜、話は目茶苦茶だけど僕は好きだな。」

「はやく、はやく読んでちょうだい!」

急かす真紅。

「わ、分かったよ。」

ジュンは少し焦げたような色の第一ページ目を開いた。

そして活字を口に出して……



 

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