□泣いたって時間は戻らない
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あたしは、あれからやっぱり移動になることはなくて、相変わらず1番隊で市中見回りなどの隊務をこなしています。あの日から、隊長はあたしを見なくなりました。でもそれが仕事に響くことはなく、ただ淡々と毎日は過ぎていきます。


隊長は次の日から、昼寝をすることがなくなり、起こす係りだったあたしもお役御免になったわけで、あたしとしては面倒だった仕事が減ってありがたいことこの上ないって感じです。


でも、最近は、会う人、会う人に「疲れてるみたいね」だとか「ちゃんと寝てるか」というような事をよく言われます。全然、全くというほど疲れが溜まるような仕事をしてないし、それでもある程度体を動かす仕事なので、布団に入ればすぐに寝てしまいます。故に睡眠不足ってことにもなるようなことはありません。なぜでしょう?


「○、ちょっといいか?」


ふ、と呼ばれてそちらを見ると副長があたしを呼んでいました。はい、と副長の側へ行くと副長にまで言われてしまいました。

「お前最近どうしたんだ!?
1番隊の奴らも心配してお前に休みをあげてくれって言ってきたぜ。どうする!?ちょっと休んだらどうだ?仕事に響いても困るしな」

そういってたぶん落ち込んだ顔をしたあたしの頭をぽんぽん、撫でました。

『ご、ご迷惑をおかけします』

そう言うと、なに言ってやがる、お前よりも厄介なのが残っちまったからな と沖田隊長を親指でクイッと指しました。前の隊長だったら今頃、食堂だろうが何だろうがバズーカをぶっ放してくるはずだけど、チラともこっちを見ない様子を見ると、あぁ、あたしはそれほどまでに彼を傷付けてしまったのかと、胸の奥がズキズキと痛みはじめました。






支度をして、屯所を出るときに隊長を見かけたので挨拶をしました。彼は後ろを向いたまま「ゆっくり休んでくだせェ」と言いました。それだけしか言いませんでした。小さくなる彼の後ろ姿を見て、あたしは気付きました。隊長の事が、好きなんだと。涙が頬っぺたを通って地面を濡らすけどあたしはそれを拭う事もできないでただ隊長が見えなくなるまで、見つめていました。










過去には戻れない…








(できる事なら、あの日に帰って取り消したい。あなたを傷付けたあの言葉を)


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