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□ワンナイトオンリー
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『銀、』
「んあ?」
『銀も、行くの?』
「どこに」
『小太郎と晋助と辰馬と…』
「あぁ!……ん、まぁな」
『ふーん…』
「………」
『………』
「たぶん、死なねェからよ…」
『…うん。絶対ね、お願い』
その日は、そのまま別れたんだっけ?次の日、騒がしいから何事かと聞いたら、今日、戦に出る者は出立すんだ…ですって? もっと先かと思ったのに!どうして言ってくれなかったのよ!
泣きながら家に帰ったら、父ちゃんも、支度をしていた…
なによ!女とか、こどもと思ってみんなして!あたしは蚊帳の外?
知らないよ!ほっといてよ!
父ちゃんだって!銀だって!みんなあたしだけおいてけぼりにするくせに!
母ちゃんに、「父ちゃんそろそろ行くってよ」って言われて、泣きすぎて重い瞼のまま、見送った。近所の寺で壮行会をやるとかなんとかで母ちゃんは忙しそうだった。たぶん、忙しくしてないとおかしくなっちゃうからだと思う。
一人で家に帰る途中、銀の家の前を通った。足を止めて、引き戸を開けたら、銀がいた。
『あんた!もうみんな行っちゃったよ!!早くしなよ!』
泣きながらも、送り出すあたしは、ねぇいい女でしょう?
どんどん、と胸を叩いてた腕を掴まれて、逆に抱きしめられた。
「来んの遅ェんだよ…今日は最期だから一緒にいようって思ってたのによ…」
あたしたちは別に恋人とかじゃないじゃない、あたしが一方的に好きだっただけじゃない!
『な、によ…最期って!縁起悪い!別にあたし銀がいなくったって……!!』
塞がれた唇が開放されて、銀を見たら、「嘘つけ!」と、おでこを小突かれた。
『銀…だって!』
「だってもくそもねェよ!最期くらい甘えろ」
たくさん肌を重ねて、たくさん名前を呼び合って、それでも銀が足りなくて、銀の小指にあたし、髪の毛を巻き付けたんだ…お守りって。そうやってさいごまで銀に甘えたんだ。
「帰ってくるからな。 」
今宵限りの契りとて
父ちゃんの戦死を聞いて、うちを引越した…もう銀に会える術をあたしは知らない…
「帰って来るからな、部屋、きれいにして待ってろよ」って、言ったじゃねェか…バカヤロー。