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□自転車やさんの恋
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『最悪…』
ポツリと零れた言葉は煩いクラクションの音で掻き消された。
ずっと立ちっぱなしでようやく自転車にのって帰宅できると思っていたのに…
そ の 筈 だ っ た の に !
こんなことして絶対許さないんだから!絶対絶対そのうち罰が当たるんだから!
アスファルトと擦れて変な音を出すタイヤ。朝までは元気にあたしをここまで運んでくれたのに!
ちくしょう!
こんな坂だって、パンクさえしなきゃすいすいのぼれたのに…
かばんの中で唸る携帯。
『もしもし?…今帰ってるとこ。うん、いや、なんか悪戯されたっぽい。パンク?してて、押して帰ってるとこ。直してから帰るよ。』
はぁ〜。こんなときおっきな車で迎えに来てくれる彼がいたらな…
いや、やめよう。虚しくなるだけだ。
駅から離れた大型スーパーに入ってる自転車やさんに入ると、見慣れない、若い男の子がいた。
店の隅でひたすらバドミントンのラケットの素振りをしている。
店長も眺めてないでなんか言えよ、とか思うけど……。ちょっと髪が長くて黒髪で、いまどきっぽい髪型してて、
その子があたしに気付いたみたいで、 「どうしました?」なんてやってきた。
『あ、あのパンク?させられちゃったみたいで…』
「あ、じゃ見てみますね」
『お願いしま、』
「あのコレ、キャップは…?」
指を指された方をみればタイヤの空気入れるところのキャップが取られただけだった。
『すいません!パンクじゃなくてキャップ取られただけですね、それ!』
うわー、なんかそのにこって顔、恥ずかしい!パンクさせられたとか言って恥ずかしい!
「じゃ、空気いれてみますね」
同じくらいの歳かな?とかあのキャップいくらかな?とか考えてるうちに空気が入った自転車を彼が持ってきた。
「あの、もし心配でしたらもっとちゃんとみますよ?別料金になっちゃうんスけど…」
『あー…どうしようかな…』
「じゃ、また空気抜けたら持ってきてください!」
『あ、はい。』
自転車やさんの恋
山崎ィ、今のちゃんと見た方がよかったんじゃねぇの?
いいんです!
また会いたいから。
悪い奴だな…