ナミモリ町の外れには少し異質な場所として隔離されている一角がある。
昼間は人通りもなく静かなそこは深夜近くになると賑わいを見せ、着飾った女や派手な出で立ちの男が一つの店から出入りするのが当たり前の風景となっている。そしてかつてその店でカリスマホストとして崇められていた人物が一人、今夜店の門をくぐる。


「久しぶりですね。今晩は。犬、千種。」
「骸さん!柿ピー、骸さんが来たびょん!」
「…わかってるよ。」

クフフといつもの(綱吉いわく気持ち悪い)笑いを零しながら店内へ足を進めると中にいるホストたちの視線が一気に骸に集まる。それを肌に感じながら骸は店の奥の席に腰を下ろし、犬、千種と呼ばれた二人を両脇に座らせた。フロントボーイ担当の千種は忙しいのになぁと見えないように溜息をつき、この店ナンバー2の犬は両手にドンペリを持ってグラスに並々とそれを注いでいる。

「骸さん、今日はどうしたんれすか?」

はいと手渡されたグラスをゆっくりと傾け喉を潤わせた骸は店内をゆっくりと見渡し何やら困った顔をする。苦笑いに近いそれに二人は首を傾げ、次の言葉を待つが骸は残りの酒を一気に飲み干すと立ち上がり今日はもう帰りますねと告げた。立ち上がった骸の後ろを犬と千種がついていくように歩き、来たばっかで何だそれと近くで会話を聞いていた他のホストは心の中でツッコミを入れたり、隣にいる女性の視線が骸に釘付けになっているのに舌打ちをするホストもいた。
そして何やらぎゃあぎゃあと騒がしい声が聞こえ店の外へ出た三人が目にしたものは酔っ払った男が取っ組み合いの喧嘩をしていて、それをただ見ているだけのギャラリーの群れ。
不敵に笑う骸はポケットに手を入れバチリと電流が流れるそれを構えた。


「困ったことにお金がないんですよ。」

失神した(死んだかも知れない。)二人の男の懐から抜き取った財布に骸は溜息をつきながら少ない中身を数える。ギャラリーの中から狩ってもよかったがこれから客の足が少なくなったら責任取ってくださいね骸様、なんて凄まれては何も言えない。

「もうすぐ家賃を払わないといけないんですが最近は外ればかりで。」
「骸さんにしては珍しいんじゃないれすか?」
「それに昨日は雲雀恭弥を抱いてしまったんですよね。」

十万円が一気になくなりましたよと笑う骸には危機感なんてものはないのだろうか。ボンゴレチームが住むあの大きな家の持ち主の恐ろしさは直接チームに関係のない犬や千種にもよく分かるので、二人は顔を見合わせてダメだこの人と呆れる。リーダーの沢田綱吉より強い(ただし素面時。)あの赤ん坊が毎月チームに求める家賃は一人十万となっていて、獄寺はもちろんランボや山本も毎月苦労している。つーかそもそもアヒルを抱かなければよかった話じゃないれすか!最もな意見をさらりと流す骸の気に障ったのはそこではないらしい。

「アヒルじゃなくて雲雀ですよ、犬。いい加減覚えて下さい。」
「そっち!?」
「…ていうか今日は何のために来たんですか。」

面倒臭そうに当初の疑問を今更ながら聞いてみると骸はまたクフッと小さく笑い、最初に店で見せたのと同じ困った顔をする。

「資金調達のために羽振りのいい女性を探しに来たんですが…」

それらしい女性はいませんでしたね、経営大丈夫なんですかと余計な心配をする骸にほっといて下さいと返し仕事があるのでもう戻りますよと告げ千種は店内へ戻って行った。残された犬はこの人は他人の客を横取りするつもりだったのかと察してそこで思う。

「骸さんホスト業に戻るつもりれすか?」
「いえ…戻る気はないんですが。」

とりあえず今はお金が必要なんですよねと言いながらキョロキョロと辺りを見回す骸が視線を止める。
つられた犬もそちらに目をやるといかにもお金持ちですと言ったマダムがやたら熱の篭った目で骸を見つめていた。犬が思わずゲ、と言うとホストにあるまじき発言ですよと注意して骸はそのマダムのほうへゆっくり歩み寄る。

「マダム、あなたのお名前は?」
「マコです。」
「顔も美しければ名前も美しいですね。」

頬を染めるマダムとお世辞にも程があるそのセリフに犬はげんなりと肩を落とし、骸さん、あなたはやはりカリスマホスト。ホストの鏡ですよと店内に戻ったはずの千種はこっそり物影でそのやりとりを眺めながら感心していた。手にはリボーン(最近流行りの漫画。)6巻を持って。

「僕はこういうものです。」

にっこりと微笑んだ骸は財布の中から名刺を一枚取って差し出す。
『あなたの心の隙間お埋め致します。元カリスマホスト、六道骸。』
なんてどこのセールスマンですかあんた。


「楽しい夜を過ごしましょうか。」


(うわあ…)
胡散臭え!!


































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