コンコンとドアを叩く音がし、それだけで相手が誰かは予想がつき骸はにっこりと笑う。(この家でノックをする人間なんか自分を除き一人しかいない。)どうぞ、と柔らかい口調で入室を施すとゆっくり開かれたドアから覗いたのは真っ黒な髪をふわりと揺らした人物で、その肩には見かけない小さな黄色い鳥がちょこんと乗っていた。
おやおや何とも可愛らしい組み合わせですねえと思わずじぃっと見入っていると、雲雀がきょろきょろと辺りを見回し小さく溜め息をつく。

「相変わらず汚い部屋だね。」
「入って早々失礼ですね。」

いくつもの本棚とそれに並べられた数え切れないほどの本たち。それだけではなく棚に入り切らなかった本が部屋のあちこちに所狭しと山のように積み重ねられている骸の部屋はボンゴレ一同の間でナッポー図書館、と言われている。(何とも可哀相なネーミングセンスは獄寺だ。)
月に二十冊以上の本を読むほど本好きな骸だが、物を捨てるということが出来ない性分らしく本が減ることはまず無い。(また読みたくなった時にどうするんですか!だってさ。)かろうじて綺麗なのはベッドとその付近だけだが、まあそんなのは他人の部屋の事だし自分たちには関係ないと誰も注意をしないし、仮に何か言ったところで骸が大人しく従うわけもないから放っておけ、といった感じの部屋なのだ。


「鳥の飼い方が載ってる本ある?」

コンビニには売ってなかったと近くの本棚をじっと眺める雲雀の肩で黄色い鳥が小さく黒い目をぱちくりさせている。
その鳥飼うんですかと尋ねると、とりあえず餌が何かを知りたいと言われ普通にミミズとか市販の鳥用の餌でいいんじゃないですかと返す。ふぅん、と言い、それでも本棚をしきりに見つめる姿にそんなにその鳥が気に入ってるんですか、なんて少しの嫉妬心を混ぜながら重い腰を持ち上げ、本棚ではなく重ねられた本の山を漁る。

「チョコあげたのに食べなかったんだけど。」
「まあ、普通はそうでしょうね。」
「そうなの?」

えーっと、確かここらへんに置いた気がするんですけどねぇと言う骸の頭上。
高く積まれた本たちがゆらゆらと危なげに揺れているのに雲雀が気付くが、まあいいかと静観。
これですかね?山の真ん中あたりから一冊抜き取った時、案の定というか何というかバランスを崩した本たちが大きく揺れた。
そして。

「クフー!?」

バサバサと骸の上に降ってくるたくさんの本、本、本。ばか。小さく呟いた言葉を聞いた小鳥が高い声でバカ、バカ、と復唱するのに、雲雀が君って頭いいんだねとその頭を撫でる。こんもりと埋もれた骸がげほげほっと咳をしながら現れ、誰がバカですかと恨めしげな視線を投げた。

「まったく散々な目に遭いましたよ…。」
「ねえ、本。」
「…形だけでも心配して下さいよ。」

どーでもいい。骸の手からぱっと本を奪い、さっさとこの部屋から出ようとした雲雀の動きがぴたりと止まる。視線はその本の表紙をじっと捕らえていて。


「何これ。」

『愛と快楽!レッツ☆四十八手!』
鳥の飼い方なんて載っているわけがない。おやおや?どうやら間違ったみたいですねと雲雀からそれを取り返し、骸がにっこりと笑う。胡散臭い。

「ところで話は変わるんですが。」

じろりと睨む雲雀を軽くスルーし、クローゼットを開けた骸が何かを取り出す。じゃーん、なんて言いながら目の前に出されたものは骸がいつも着ているのと同じ色、似たようなデザインをした制服なのだが何故か下がスカートになっているため、それは明らかに女物だと分かる。

「君用にと千種に作らせたんです。」
「僕にそれを着ろっていうわけ。」
「お願いします。」

にっこり笑う骸にトンファーを構える。

「いいじゃないですか。シチュエーション的に萌え…燃えません?」

同じ制服を着た男女。(男女?)本の並べられた部屋はまるで学校の図書室。(まあ学校なんて行ってないからよく分からないんですが。)そこで行われる禁断の愛の交わり。ダメ、誰か来ちゃう…。クフフ何を言ってるんですか?もう沢山の本たちがギャラリーになってますよ。いやっ、恥ずかしい…

「めちゃくちゃ燃えますね。」
「咬み殺す。」
「グフー!!」

振り上げたトンファーが骸の頭にヒットする。その場にばたんと倒れた骸がそれでも諦めませんとふらふらになりながらも立ち上がり開いた手の平を雲雀の前に突き付け、プラス五万でコスプレ、更にプラス五万で四十八手をお願いしますと言うのには怒りを通り越しさすがに呆れる。


『クフー!』
「おや?」
「え、」

高く響いた声は骸の口癖。だがそれを発したのは威嚇するように羽をばさりと広げ、心なしか目を三角に吊り上げた黄色い鳥だった。まるでご主人様を守るが如く。

『クフー!チカヨルナ!クフー!』
「賢いですがなかなか生意気な…」
「ちょっとどうしてくれるの。変な言葉覚えちゃったじゃない。」

やっぱり咬み殺す。思いきり振り上げたトンファーに今度こそ骸が深く沈んだ。無念…そう呟いて動かなくなった骸に時代劇の見すぎ、なんて思いながら結局は当初の目的も果たせなかったと雲雀の機嫌が一気に下がる。

「来て損した。」
『クフフー!』
「ねえ、それもう言っちゃダメだからね。」

あとやっぱり餌はチョコで我慢して。そう言ってリビングへと向かう。
この後、テーブルの上でチョコとにらめっこする鳥とそれを困った顔で見る雲雀を目撃した獄寺が、渋い顔をしながらもペット用品店にわざわざ足を運ぶのであった。



























++++

[TOPへ]
[カスタマイズ]




©フォレストページ