ボンゴレ行きつけの居酒屋、無愛離愛(ヴァリアー)。ビールと漬物しかメニューにないこの店には客が来ることも滅多にないが、そこが良いのだと一同は思っている。ゆっくり酒を飲みたい時はここだよなあ、(綱吉の手前、家だと飲むに飲めないから。)と山本と骸が店に入ると愛想のよいオカマがいらっしゃいと出迎えてくれる。

「あら?今日は二人だけなの?」
「笹川了平なら今日は来ませんよ。」

あら残念、眉を下げておしぼりを渡す彼にとりあえずビールと大根の漬物を注文すると、わかったわと内股で小走りしながら厨房へ消えていった。
テレビでは中日対巨人戦(イン名古屋ドーム)がやっていて、巨人がんばれよーと山本が声援を飛ばすのに僕はヤクルトファンなのでどうでもいいです、他の番組ないんですかと骸がつまらなさそうにしていた。


「ゔぉ゙お゙い!漬物出来たぞぉ!」
「はいはい。」

銀色の長い髪を揺らしながら厨房担当、スクアーロが叫ぶと自称王子、もう一人のフロア担当、ベルフェゴールが面倒臭そうな顔をしながらお盆にビールと漬物を乗せ運んで来る。

「ほらよ。」
「サンキュー。」
「ああ、悪いんですがチャンネル変えて貰えませんかねぇ。」
「まーまー首位攻防戦も見ておけってー。」

君が見たいだけでしょうと漬物を頬張る骸に、阿部にホームランが出ましたーと興奮する中継。静かな店内は殺伐というより落ち着いた雰囲気を持っていて、平和だよなーとグラスのビールをぐいっと飲む。レジ付近で売上の計算をする小さな赤ん坊、マーモンが今月も赤字だねと溜息をついていた。
そんな時ガラリと店の扉が開き、珍しく別の客かと視線を向けた山本は思わず持っていたグラスを落としそうになり、それに気が付いた骸も箸を止めた。うわ、とベルフェゴールが顔を引き攣らせマーモンは素早く店の奥へ消えて行く。現れたのはボンゴレチーム最恐、最凶、最強と見事に三拍子そろった彼だった。

「ツ、ツナ…」
「ああ、何だ来てたのかお前ら。」

にっと笑った綱吉はそのままカウンター席に座る。手にはビール瓶を持っていて既に酔いの口だ。

「たまにだが、ここのまずい漬物が食いたくなるんだよな。」
「ゔお゙ぉい!喧嘩売ってんのかぁ!」
「まーまー落ち着けってスクアーロ!」

喧嘩は売っている、そして綱吉はそれを是非とも買って欲しいのだ。平和に酒が飲みたかっただけなのに、とスクアーロを宥めながら山本はひっそり溜息をついた。ここで綱吉のドSスイッチが完璧に入ってしまったら全員が犠牲になりかねない。野球中継は8回裏、中日の攻撃で二死満塁。
ここを抑え切ればきっと何とかなる!実況よろしくな今の状況にぴりぴりと緊張感が漂っている中、またしても店の扉がガラリと開く音がした。

「何やってんだ、ドカスたちが。」
(うわあ…)

満塁ホームランを打たれた。わああとテレビから歓声が上がり、それはもうがくりと膝をつくピッチャーさながらに山本は今日は巻き添え決定だと覚悟する。
一気に冷え切った店内に響くのはドSなボンゴレ十代目と、無愛離愛の店長ザンザスの声。

「てめぇ、うちの店の敷居を跨ぐなって何度言えば分かる。脳みそまでカスサイズなのか。ああ?このカス野郎が。」
「おい、それが客に対する態度か?いつ潰れてもいい店のくせに。」
「ドカスに食わせる物はねぇんだよ。わかったんなら消えろ。」
「食う物なんか漬物しかないくせに何言ってんだ?だからお前もこの店も駄目なんだよ。カスカスうるせーし、それしか言うことねえし、ボキャブラリのない奴だな。」

殺気を放つザンザスに、拳を握る綱吉。このままじゃ店もろとも破壊されてしまうと誰もが思った時、そんな空気を壊すかのように骸の携帯が鳴った。
森のくまさんが小気味よく流れ、その場が一気に脱力する。やってられっかと吐き捨て、近くの椅子に腰を下ろし煙草を吸うザンザス。そんなことより腹が減ってんだよとベルフェゴールに漬物を注文する綱吉。
一人憮然とした表情をした骸がこの着信音は犬がイタズラして勝手に設定したんですよと言いながらメールの返信をしていた。
とりあえず殴り合いが始まりそうな空気を打破することは出来たなと落ち着きかけた時、

「まずいな。」

がりがり音をたてながら口を動かす綱吉に、そう思うなら食うなと叫びたくなる。その台詞に黙っていないのはスクアーロではなく、ザンザスで。

「てめえ、カスの分際で何言ってやがる。」
「一応褒めてやってるんだけどな。癖になるほどまずいって。」

再び一触即発。
ガタリと立ち上がったザンザスが煙草を持っている右手をゆっくり上げ。


「ドカスにはこれで十分だろ。」

ぽとりと灰が落とされた。しかし落とされたそこは灰皿ではない。箸を伸ばしていた綱吉の手もピタリと止まり、真っ白だった大根がじんわり灰色に染まる様子はスローモーションに見えた。(というよりもう時間が止まったように感じた。)しかし不敵な笑みを浮かべるザンザスに綱吉がにやりと唇を歪める。


「愛情たっぷりだな、ザンザス。」

灰味(どんな味だ。)なんて何のその。笑いながらそれを口に運ぶ綱吉にもう誰も何も言えなかった。とりあえず吹雪の中にいるようなこの背筋を走る寒気をどうにかして欲しい。
最後の一切れを食べ切った綱吉が、

「まあ、まずいことに変わりないけどな。」


殺す!!
ザンザスの殺気が店内を包み、無愛離愛が半壊するのは今から二分後の話。
そして逃げ遅れた者はこう語る。あれは俗に言う地獄絵図?いや、この世の終わりだろう、と。
































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