昔は可愛かった、かっこ良かった、なんて付き合いの長い夫婦やカップルが相手に対してそう思ってしまうのも仕方ない事なんだろうなと今の状況を見ていたら思う。いや、自分たちは決してそういう関係ではないが、昔の姿を一応知っている訳だから。
助けてくれ…と体を震わせながら血を流す哀れな男と、その男の胸倉を掴みながら笑う綱吉の姿に山本が溜息を吐く。転がっている他の仲間たち数人はぴくりとも動かず、息してるよなあと一応の心配はしながらもポケットを漁り、財布から現金を抜き取る。


「誰に向かってケンカ売ってんだ?」
「う…ぅ…」
「日本語分からないのか?答えろ。」

いやいや無理だろ。何本か抜けた歯と、舌を切ったのであろう口から流れる大量の血液に邪魔され、男は口をぱくぱくさせるだけで精一杯に見える。
事の始まりは綱吉の酒がなくなり、買い(盗り)に行くのに付き合わされた事から始まった。荷物持ちに来いと言われ、二人でぶらぶら夜の道を歩いていると向かいから何人かの今時なオニイサンたちが笑いながら近付いてくる。一瞬で状況を理解した山本は、命知らずだなあと思わず苦笑いしてしまった。


「ガキがこんな時間に出歩いてると危ないでちゅよー。」
「そうそう、襲われちまうぜ?」
「俺たちみたいな奴らになー。」

案の定、絡んで来た男たちは二人を囲みゲラゲラと笑う。痛い目に遭いたくなかったらお金渡してくれるかなーと言いながら一人の男が綱吉の肩に手を乗せるのに、やっちまったよこいつ…と山本が恐る恐る綱吉の顔を見るのと同時に、その男の体は約3メートル先に吹っ飛んでいた。


「な…!」
「汚い手で触んじゃねえよ。」

白目を向いたまま動かない男の姿に、他の仲間が逆上する。よくも!なんて言いながら殴り掛かってくるのに、綱吉がひゅっと軽く口笛を吹く。

「でも残念だな、お前ら。」

これからは相手を選べよ。拳を握った綱吉に、とりあえず任せようと山本が一歩引いてそれを見守る。(木刀置いて来ちゃったし。)倒れて行く男たちと楽しそうに暴れ回る綱吉を見て、本当にすげえ奴だよなと心の底から感心しながら昔の綱吉を思い出した。幼い頃は素直で可愛かった綱吉を守ってあげなきゃなと思っていたが、今ではすっかり逆の立場になっている。いや、酒さえ飲まなければ今の綱吉も素直で可愛いが。(素面綱吉には滅多に会えないけど。)雲雀の取り合いもよくした。今じゃそんな命がいくらあっても足りない事は出来ないけどと、ぼんやり思い出に浸っていたら最後の一人だった男がぐしゃりと地面に倒れ込む。

「起きろよ。」

ぐいと胸倉を掴み、そしてここで冒頭へと戻る。
返り血で真っ赤に染まったシャツに、これ気に入ってたんだよなあと綱吉が笑う。がくがくと怯えに震える男が何回も頭を下げるが、そんなこと綱吉からすればどうでもいい事で、そもそも今は怒っている訳ではなく、ただこの状況をすごく楽しんでいるだけなのだ。ターゲットにされた男に運が無かったなぁと思いながら少し同情した。


「で?オトシマエはどうするんだ?」

血だらけになったシャツを脱ぎ、それを男に叩きつけると血で滴ったそれがびちゃっと音を立てた。
後ろにいた山本が綱吉の背中に彫られている、ボンゴレ十代目を表す大きな『]』のタトゥーを見ながら長くなりそうだなと少し眠くなってきた目を擦っていると、男がちらりと視線を向けてくる。何とかしてくれ、とでも言いたいのだろうか。

「悪いねー。うちのリーダーは何使ったって止めらんねぇ。」

ひらひらと手を振り、終わるまで寝るかと目を閉じた。(終わったらどうせ叩き起こされるし。)
俺に生意気な口や態度をとるとどうなるか、覚えておけよ。静かな辺りに響くのは鈍い音と、そして綱吉の声。


「俺は沢田綱吉。所属は、」

チームボンゴレ、十代目リーダーだ。
激しさを増した音を聞きながら山本がくしゃみをする。寒くなって来たこの季節、いなくなったはずの蚊のような、小さな泣き(呻き)声を出すのは命知らずな人間だけだった。
草むらから鈴虫の鳴き声は聞こえるけれど。




































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