あーダメだわこいつとやる気のない声が夜の公園に響いた。右手の拳を血で濡らしながら取った財布の中身に、獄寺はがっくりと肩を落とす。千円札が三枚じゃ煙草代としても三日も持たないが仕方ないと思いぐしゃりとそれを乱暴にポケットに突っ込む。倒れたまま動く気配のない中年のオヤジに死んではいねーだろとその場を去った。

「おや、その顔はハズレだったみたいですね。」
「うるせーよ。」

向かい側から歩いて来た骸は手に分厚い財布を持って楽しそうに笑っていた。
ちくしょーお前は当たりだったのかよと毒づき隙あらばぶん殴って奪ってやろうかと考える。しかし骸の左手に握られたバチバチと音を立てるそれを目にし、思い止まった。どこで手に入れたのかわからないスタンガン(たぶんネット通販。)は改造されていて初期設定の電流の約三倍の威力は持っているだろう。餌食になったやつは死んだかも知れねーなと翌朝の新聞の記事を想像して新しい煙草に火をつける。

「あいつらは?」
「笹川了平は車上荒らしに行ってますよ。他はわかりません。」

ビール飲みたいですねえといかにも一仕事終えたような骸は携帯を取り出し、慣れた手つきでどこかに電話をかけ始めた。ああ千種ですかと聞き慣れた名前が出てきたが付き合ってられないとその場に骸を残して歩き出し自分も携帯を取り出した。山本武と登録された番号を呼び出す。

『おー、何だ?』
「何だじゃねえ。お前今どこにいるんだよ。」
『キャバッローネだけど?』
「女か?」
『まさか。ヒバリ。』
「ヒバリぃ?」

ここ三日ほど音信不通だった雲雀が見つかった。いつもふらふらと個人行動をする雲雀の携帯は常に電源が入っていないし、家にもたまにしか帰ってこない。今はまだいいが一年ほど前に二ヶ月間帰ってこなかった時がありどっかで死んでるんじゃないかと思わせたほどだ。嬉々とした山本の声にこいつ絶対今日仕事してねえだろと思い、取り分を期待するのは諦めた。

『…あんっ』
『あー、ごめんなヒバリ今切るから。』

久しぶりに聞いた雲雀の声に獄寺も少しばかり興奮したが、じゃあなーというバカでかい声で萎えた。
切れた携帯を地面に投げ付けるとそれは見事に真っ二つに折れたが特に気にはしない。家に帰ったところで綱吉(きっと酒を飲んでいる。)がいるだろう。ぞーっとする背筋を丸め、近くの駐車場に行くと芝生のような頭の男が極限だとか何だとか叫びながら車の窓を割っていたが、関わりあいになりたくないのでその場を素通りした。
確か今日は水曜日だからフロントにディーノがいる。事情を話せばタダで入れてくれっかなと淡い期待をしながら獄寺もキャバッローネに向かって歩き出す。山本は不満かも知れないが見るだけならいいだろ。
抱きたいのはやまやまだが、雲雀の体は十万円から始まる。有り金は全部でさっきの三千円だけで、命の源とも言える煙草と酒に代わってしまうそれは使えない。

季節的に寒くないはずの夜の空気を寒く思ってしまう自分に喝を入れるべく、近くにあった自販機にとりあえず渾身の一撃。
壊れたそれが小銭をじゃらじゃらと生み出すのに一瞬だけ神を信じた。クリスチャンに謝れと言いたい。



























++++

[TOPへ]
[カスタマイズ]




©フォレストページ