足元に焼酎の空き瓶が転がるその場でにやにやと楽しそうに笑ったボンゴレ十代目は、右手の中指を突き立てながらこう言った。

「気持ち悪いな。」

珍しく大人しい様子で酒を煽っていた綱吉にボンゴレ一同はすっかり油断していた。これはやばいかも知れないと静かに席を立とうとした山本の裾を素早く掴んだ綱吉は、それを力任せに引っ張った。
床に叩き付けられるような形で沈む山本を見て、その細い腕のどこにそんな力があるんだと笹川がグラスをテーブルに置き逃げられないと小さく両手を上げる。ぐーすかいびきをかいて寝てる牛ガキを心底羨ましく思いながら獄寺もグラスを置いた。一方、指を差された本人は納得いかないといった表情を浮かべている。

「僕のどこが気持ち悪いんですかねえ。」
「ヤってる時の声だな。クフとか言うのが気持ち悪いし何より喘ぎ声でそれはない。意識してないと萎えるくらい気持ち悪い。」
「ああそれは納得っすね。もー本当こいつ下のとき萎える。上だと痛くしやがるし。」
「おいタコ頭…。」
「君には聞いてないでしょう獄寺隼人。」
「ああ?」

まさに一触即発。(獄寺と骸が。)火の粉を撒いた本人はにぃっと笑いながら新しい缶ビールに手を伸ばしている。撒くだけ撒いておいてあとは我関せずな最強(最凶)な彼の興味はテレビに移ったらしく、そこには最近お気に入りのアイドル『京子』が映っていた。

「聞き捨てなりませんねえ。痛くした覚えはありませんけど。」
「それが痛えんだなこれが。下手くそ。」
「ほーう…なら言わせてもらいますが君も下手くそですよ。笹川了平のほうが君より何倍もテクニシャンですね。」

急に自分にまで火の粉が降りかかってきたことに笹川がむっと顔を歪める。
下らないことに巻き込むなと言いたかったが、内容的には褒められているのだろうと思いこのまま自分も我関せずを貫こうと思ったところだった。

「俺のテクがこんな芝生頭に劣るわけねーだろ!大体こいつだって下手くそじゃねえか!」
「何!それは聞き捨てならんぞタコ頭!」
「ヤるかこら!」
「極限に上等だ!後で後悔しても知らんぞ!」
「こっちのセリフだ!ひぃひぃ言わせてやっから覚悟してろてめえ!」

すっかり骸の存在を忘れ掴み合いにまで発展した獄寺と笹川はぎゃあぎゃあと騒ぎながら二階へと上がって行った。どちらの部屋でするのかは分からないが明日の朝にはどちらの方がテクニシャンか判明するのだろうか。まああの二人に限ってお互いを認めるなんてことはまず無いので結局のところ何の解決にもなっていないのだ。
すっかり置き去りにされた骸はクフッと小さく哀愁を漂わせる笑いを零した。すかさず綱吉が持っていた缶ビールが飛んできてそれを頭で受けるとアルコール液がばしゃりとかかる。毎日一時間かけてセットしてる髪型は見事にぺしゃんと潰れていた。

「ははは!何か潰れてっと変だな!」

いつの間に復活したのだろう山本が片手でビールを煽りながらげらげら笑っている。気分的には非常によろしくないので、とりあえず近くにあった笹川のグラスを取って半分ほど残っていたそれを思いきり山本の顔にぶちまける。ヒュッと軽く吹かれた口笛は綱吉のものだ。

「…ちっと穏やかじゃねーな。」
「穏やかですよ。君みたいな人間の相手をするのはとても退屈で。ああ、平和ですねえ。」
「口だけは達者なのな。おまけに制服マニアで奇人変人。」

そう告げる山本にスタンガンをお見舞いしてやろうかとポケットに手を伸ばしたとき、がちゃりとドアが開き視線を向けるとそこには眉を寄せた雲雀がいた。酒臭いと一言文句を零した雲雀を引き止めたのは山本だった。

「ヒバリ!後で部屋行くからなー!」
「来なくていいよ。」
「じゃあ僕が行きます。今日はいい仕事をしてきたので久しぶりに一緒に夜を過ごしましょう。」
「だから今日は疲れてるからもうしたくないの。来たら咬み殺す。」

瞬間、二人がぐあっと間抜けな声を上げて床に倒れた。咬み殺すの『咬み』の段階でトンファーを振り上げた雲雀は容赦などしない。もう咬み殺してるじゃないかというツッコミを入れた綱吉は右手で焼酎の瓶をぶんぶん振り回している。(恐らく特に意味はない。)それに横目を向けるだけで雲雀は自分の部屋へ向かおうとした。が、待てよという低い声にぴたりと足を止めた。

「三倍出す。今日は俺に抱かれろ。」

ワオ。何て素敵な殺し文句。溜息をついた雲雀が先払いだからねと告げ時計に目をやると時刻は夜の十二時を回ったばかりだった。夜はまだまだ長いのに眠れそうにない。
いい夢を、という言葉があるけど、それって何?






























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