西浦×阿部(2)
□Garden
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二人でいる時、いつも怒ってた阿部くんは最近よく笑うようになった。
こうして話してるだけの時も、口元とか目元とか優しい。
前にそう言ったら「オマエだって笑うようになったじゃん」って言われた。
笑ったら笑い返してくれることを知って、オレはもっと笑うようになった。
「でも、阿部くん だ」
野球も、野球以外も、これまでもこれからも全部阿部くんだ。
周りのみんなにも感謝してるけど、オレの中の全部を占めているのは阿部くんで、それが嬉しい。
うまく伝えられないけど。
肉まんを握ったまま固まっていると冷えた肩に掴まれる感触があって、顔を上げたら阿部くんの睫毛が触れそうなほど近くにあった。
ちゅ、と音をたてて離れていった唇を見送る。
「……わり、ピザと酢醤油混じっちゃったな」
「まじぃ」って阿部くんは言ったけど、オレは阿部くんの味しか感じてなかったから、慌てて首を振った。
「……オレはさ、三橋が全部でいんだけど」
「ぅおっ!?」
「オマエは駄目」
キスして貰って、嬉しいこと言って貰って一気にテンションが上がったのに、阿部くんはすぐに否定する。
「!?な、なん…っ」
「まだ、駄目。もっと色んなヤツ入れて、比較検討してくんないとさ……まだ、雛鳥に刷り込んだみたいで後ろめたい」
オレが孤独だったから。
こんなに執着したのが初めてだから、阿部くんはいつもこうやって突き放す。
一人で投げていた庭は、より強くそんな過去を見せ付けた。
好きって言いあって、手を握ってキスして。
そこまでは許してくれるのに、そこから先は止められる。
勘違いかも知れないから。
オレの阿部くんに対する想いが間違いかも知れないから。
阿部くんの後ろめたさの正体なんて、本当は知ってる。
オレの気持ちが量れなくて怯えてるだけだ。
「阿部 くん」
肉まんを持ってない方の手で、阿部くんの冷えた手をぎゅっと握った。
「キャッチボール、しよ。それから、家に、ジュース ある」
気持ちを信じて貰えないのは淋しいけど、オレは笑った。
笑っててほしいから。
辛くはない。だって、怯えてるっていうのは、オレの事が好きだからだ。
いつか安心して、信じて貰えるように。
手を握って、温めて、震える瞼にキスした。
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