他校×阿部(1)

美人彼氏。〜西浦へお迎え〜
1ページ/3ページ


雪が舞い散る始業式の後。
大雪に見舞われたグラウンドは元より使えるはずもなくて、体育館を使わない運動部は軒並み空き教室を使ったミーティング後解散コースだった。

野球部も例に漏れず、明日から始まる室内トレーニングや走り込みに備えて身体を慣らしておくように、とかそういう真面目な話はそう長くは続かず、篠岡が用意したジュースとお菓子で一気に和んで「今年もよろしく」の後は各自バラバラに雑談になった。

そんな中、ふと窓の外を眺めた泉は異変に気付く。
早く終った部から校門を抜けていく中、主に女子がその流れを滞らせている。
視力には自信がある泉には、その原因までしっかり見て取れた。


「…阿部―」

「おう」


窓の外を眺めたまま呼ぶ泉に、阿部も声だけで応える。


「彼氏がお迎えに来てンぞー」





美人彼氏。〜西浦にお迎え編〜





阿部が部員全員に曖昧なカミングアウトしたのは、昨年のまだ暖かい頃。

それを言葉通りに受け取ったのは泉と田島と栄口と巣山で、後の全員は現実から目を逸らした。そういう逃げ道を阿部は用意したし、泉も解ってたので冗談めかして「彼氏」なんてワザとらしく呼んだ。

しかし実際彼氏は確かに阿部の彼氏で、そして校門で阿部を待っている。

阿部は泉の言葉を確認することもなく、荷物を掴むとバタバタと、それはもう凄い慌てようで教室を後にした。

どうせもう自然解散間近だったミーティングは、阿部の退場をいい切欠にお開きになり、今のタイミングで校門に近付きたくないメンバーが自ら後片付けをかって出て、特に恐いもののないメンバーがのんびりと阿部の後に続く。
4人が靴箱まで来た時そこには何故かまだ阿部が居て、焦って上手く結べないらしい靴紐にイラつき、舌打ちをしていた。

結局5人で校舎を出たのに、阿部は小走りどころか本気の走りで校門に向かう。

その横顔は恋人の迎えを喜ぶと言うには鬼気迫るものがあって、栄口がポツリと


「投手だからね…」


と漏らしたのに、泉が


「投手だからな…」


と同意した。

粉雪が風に舞う1月。
天気予報の最高気温は5度。

一直線に駆けていく阿部は充分身体が温まってそうで、冷えた身体には丁度良いカイロになるんじゃねぇの、と田島は思った。
 
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ