他校×阿部(1)
□美人彼氏。〜西浦へお迎え〜
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雪が舞い散る始業式の後。
大雪に見舞われたグラウンドは元より使えるはずもなくて、体育館を使わない運動部は軒並み空き教室を使ったミーティング後解散コースだった。
野球部も例に漏れず、明日から始まる室内トレーニングや走り込みに備えて身体を慣らしておくように、とかそういう真面目な話はそう長くは続かず、篠岡が用意したジュースとお菓子で一気に和んで「今年もよろしく」の後は各自バラバラに雑談になった。
そんな中、ふと窓の外を眺めた泉は異変に気付く。
早く終った部から校門を抜けていく中、主に女子がその流れを滞らせている。
視力には自信がある泉には、その原因までしっかり見て取れた。
「…阿部―」
「おう」
窓の外を眺めたまま呼ぶ泉に、阿部も声だけで応える。
「彼氏がお迎えに来てンぞー」
美人彼氏。〜西浦にお迎え編〜
阿部が部員全員に曖昧なカミングアウトしたのは、昨年のまだ暖かい頃。
それを言葉通りに受け取ったのは泉と田島と栄口と巣山で、後の全員は現実から目を逸らした。そういう逃げ道を阿部は用意したし、泉も解ってたので冗談めかして「彼氏」なんてワザとらしく呼んだ。
しかし実際彼氏は確かに阿部の彼氏で、そして校門で阿部を待っている。
阿部は泉の言葉を確認することもなく、荷物を掴むとバタバタと、それはもう凄い慌てようで教室を後にした。
どうせもう自然解散間近だったミーティングは、阿部の退場をいい切欠にお開きになり、今のタイミングで校門に近付きたくないメンバーが自ら後片付けをかって出て、特に恐いもののないメンバーがのんびりと阿部の後に続く。
4人が靴箱まで来た時そこには何故かまだ阿部が居て、焦って上手く結べないらしい靴紐にイラつき、舌打ちをしていた。
結局5人で校舎を出たのに、阿部は小走りどころか本気の走りで校門に向かう。
その横顔は恋人の迎えを喜ぶと言うには鬼気迫るものがあって、栄口がポツリと
「投手だからね…」
と漏らしたのに、泉が
「投手だからな…」
と同意した。
粉雪が風に舞う1月。
天気予報の最高気温は5度。
一直線に駆けていく阿部は充分身体が温まってそうで、冷えた身体には丁度良いカイロになるんじゃねぇの、と田島は思った。