他校×阿部(1)
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下心満々で近付いた彼は、苛々してそうで不機嫌で我儘で、マウンドで見たクールな印象と大した齟齬は感じなかった。
美人彼氏の作り方。2
驚いたのは彼が自宅に来るようになってから。
元来オレは兄貴で面倒を見る側の人間で、それは年下同学年に限らず年上にまで適用されるということを中学あたりで思い知らされていた。
そして彼は一つ年上のしかも投手で、それまでの印象からもオレが世話を焼くポジションになるのが当たり前のように思っていた。
なのに実際同じ時間を過ごしてみると、日常生活で支障が出てる部分をごく自然にフォローされたり。
まあいけんだろ、って思ってやった少しばかりの無理を見付かって怒られたり。(しかも言い訳もさせてくれない)
じっとしとけという言付けを守ったら、子供みたいに頭をぐりぐり撫でて褒められたり。
全くの年下扱い。
(子ども扱いとは言いたくない)
それが嫌じゃない自分に驚いて、嫌どころかくすぐったいような落ち着かない気分になるのに気付いた頃には、庭でシュンと戯れながら植木にホースで水を撒く高瀬の屈託のない笑顔からもう目が離せなくなっていた。
別れ話を切り出されるまで、それが恋だとは気付かなかったけど。
「じゃあ、お母さんは大丈夫なんですね」
電話の向こうの声は、ガッカリしたのを隠そうともしてなくて、特に約束もしていない日にちに会えそうにない事を告げた。
母親が階段から落ちたのは不幸な事故だし、それで足を怪我した母親のフォローを家族全員がしないといけないのは仕方がないし、それで誕生日に人を呼ぶとかそんな余裕がなくなるのもわかる。
だから分かったって言ってるのに、高瀬はまだ小さく溜息なんかついていて、そんなふうに未練たらしく残念がられると……変に嬉しくなんだろ。
「…また、後で祝いましょうよ。どうしても当日でないと嫌とか、オレはそんなイベント事にこだわりないんで」
だいたい約束もしてなかったし。
それから一言二言話して、通話を切る。
落ち込んでた高瀬を宥めるような格好になったけど、実はしっかり…プレゼント用意してたりして。
我慢していた溜息が漏れる。
例年の一月より気温は高いのに、風が冷たくて小さく震えた。
少しづつ陽は長くなっていってるけど、6時過ぎにはもうすっかり暗くて、慣れた通学路を自転車を押して帰る。
自宅の近くまで来て、ふとあの夏の出来事を思い出した。