西浦×阿部(2)
□So sweet,So nice!
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※11日が平日設定。
朝、篠岡に「おめでとう」と言われて自分の誕生日を思い出した。
多分母親くらいは覚えていただろうけど、基本毎年サプライズを好む人なんで本人には教えてくれない。
だから篠岡に「ありがとう」と返しながら思った事は、今日で歳が一つ増えるなんていう感慨じゃなくて『今晩はご馳走だな』だった。
そのやり取りを聴いていた水谷が昼にパンを、花井がパックジュースを奢ってくれて、後は普段どおり。
だと思ってた。
5限終了と同時に本気ダッシュで教室に駆け込んできた、泉に襟首掴み上げられるまでは。
「泉!?」
「なにしてんの!?」
花井と水谷が呼びかけてくれたお陰で、泉の力が緩む。
一瞬息が止まりそうになったから、大袈裟なくらい咳き込んでしまった。
「……っ、な に、すんだてめェ!!」
それでも離そうとしない腕を掴んで、立っている泉を睨みあげる。
「ああ?」
最初から不機嫌を隠そうともしない泉に睨み返されて、不本意ながら多少怯んでしまった。
毎晩素振りで鍛えられた腕は、オレの手も何も無視して襟首を掴んだまま真上に引き上げ、座っていたオレを立たせる。
「花井、5分で返す」
「ああ……うん、」
うん、じゃねェよこのハゲェエェェ!!
という心の叫びは首が絞まってて言葉に出来ず、人のことをぐいぐい引張って歩く泉のせいでどこか変なところ痛めないように、合わせて歩くので精一杯だった。
廊下に出て、一番近い階段を半階昇り、踊り場で壁に押し付けられる。
授業と授業の間の短い休み時間とはいえ、人が全く通らないわけでもなかった。
丁度階段を降りてきた生徒と目が合って、気まずく視線を逸らした先に、不機嫌丸出しの泉。
つか、なに。
なんでこんな不機嫌なのコイツ。
「なに、」
「誕生日」
殺されそうな勢いで睨んでいた泉の眉尻が少し下がって、それだけで大きな目の印象が随分違ってしまう。
「昼休み、水谷に聞いた」
水谷?
ああそういや、5限目のテキスト忘れてどっか借りに行ってたけど……