西浦×阿部(2)

Universe
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人間は落ち込むと肩が落ちる。

普段より背中も丸まって、視界が狭くなる。
正しくは胸を張った姿勢の時より顔が俯くから、見える範囲が違ってくる。
地面がやたら広くなる。

無理に顔を上げたところで陽射はまだ眩しくて、細めた目で見た世界はワイドスクリーンに映し出されるフィクションみたいな白々しさを感じた。

前を走るヤツの、土のついたユニフォーム。

落とした視線の先でアスファルトを蹴る、スニーカーと黒い影。

声出ししながら走るのに集中したら、だいたい身体も頭もそれでいっぱいになってスッキリするのに、今日に限っては上手くいかなかった。










9回裏ツーアウト一塁に三橋。

点差は一点。
そこででかいの打って逆転してやろうなんて欲はなかったけど、次に繋ぐつもりでバッターボックスに立った。
結果、ゴロ打たされた。

舌打ちが、近くを通った車の騒音に掻き消される。

一点差のまま負けた練習試合が終わって、学校までランニングで戻って。
反省会、ミーティング、解散の流れ。

野球なんてチームプレイだ。
凡退だってよくある。
ドンマイ気にすんな、切り替えていこう、俺だってよく使う言葉。

けど今回に限り切り替えが上手くいかなかったのは、夏に酷く悔しい思いをしたから。

舐められて、負かされて、悔しくて自主錬も増やした。
たかが練習試合でも、こんな負け方だけはしたくなかった。
溜息。


「はい、溜息いらない」


ぴた、と頬にくっつけられた冷たい感触。

コンビニの電気に照らされた薄闇の中、似てないモモカンの真似をした阿部は、いつものだるそうな無表情でガリガリ梨をぶら下げていた。
そりゃ冷てーし。

 
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