□交換交流
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『イザヤールさま』
っていう、その名前はよく知っていた。
自分の過去をあんまり教えてくれないミサさんが唯一よく話してくれることだったから。

まさか初めての対面が彼の死の淵になるとは思っていなかったけど。

それから、彼が死んでからも色々あって。
まさか、もう一度会えるとは思っていなかったけど。


ボクらの旅が終わってから数年が経った。
グビアナで魔法の研究をしているボクを、それぞれ旅を続けているカスミさんやケガレはたまに訪ねてきてくれたけど、ミサさんに会ったのは本当に久しぶりだ。
イザヤールさんと一緒だったから本当に驚いた。
死んだ人が生き返るなんて有り得ないことだ。
「人」じゃなかったからこそなんだろう。

そして今、ボクはイザヤールさんと一対一でお茶を飲んでいる。

場所はボクの家。広くはないけど、一軒家を借りて住んでいる。
ボクの家に立ち寄ってから、ミサさんは城の方に挨拶に行ってしまった。イザヤールさんは女王たちとも面識がないのでこっちに残った。
とりあえずお茶を出してみたものの、会話がない。
何故だか分からないけど、空気がピリピリしている。
敵意を持たれている?
あんまり、警戒されるタイプじゃないと思ってたんだけどなぁ。
ミサさんに限って、ボクや仲間のことを悪く言うことはないと思うけど。

「お茶、どうですか?この辺りで作られてるもので、ちょっとクセがありますけど」
「ああ……美味い」
「そうですか」
ちょっとだけホッとする。
自分もお茶をすする。
人に嫌われるのはどんな時でも嫌なものだけど、それがミサさんの大切なひとならなおさらだ。
色んな話を聞いた。ちょっと妬けるくらい。
あの優しい人が、本当に本当に大好きな人。
できるなら仲良くなりたい。話をしてみたい。

どうしたものかと考えながら、ちらっと様子を窺うと、イザヤールさんと目が合った。
なんだかばつの悪そうな顔。

「……?」
表情の意味が分からずに首を傾げると、彼は目を逸らして、それから口を開いた。
「……すまない」
「何がですか?」
「君が悪いわけじゃない。私が勝手に機嫌を悪くしただけだ」
「はぁ」
やっぺり機嫌悪かったのか。
でも、それがボクのせいじゃないっていうのはよかった。
イザヤールさんは目を逸らしたままお茶をすする。すすってからまたぽつり、言葉を続ける。
「君たちのことは聞いている。ミサがよく話してくれた。素晴らしい仲間たちだったと」

ボクはようやく気付いた。
表情に出さないようにしているけど、この人はたぶん、恥ずかしがっている。
『意外に思われるけど、結構照れ屋なんだよ』
いつだったかミサさんが惚気のように言っていた。

「私はたぶん、君たちに嫉妬しているんだ」


ボクは笑った。
イザヤールさんが驚いた顔でボクを見たから、ごめんなさいと謝って、でも笑顔を消せない。
ボクだって、ボクらだって、あなたに嫉妬してたんですよ。
おんなじなんですね。
話をしましょう。ミサさんのこと。彼がボクらにあなたのことを、どんな風に話したか。ボクらがどんな風に彼のことを大好きだったか。
話をしましょう。交換しましょう。
彼の大事な人なら、ボクにとっても大事な人だ。
仲良くなりましょう。何にも奪い合ったりなんてしない。

そうしてミサさんがちょっと妬いてくれたなら、きっともっと楽しい。

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