NO.6
□アニメ ♯6
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鼠の一匹が届けた知らせ。沙布が治安局に連行されたという、紫苑にとってきっと最悪な知らせだ。
そして俺にとっても。
紫苑が行ってしまう。そして行かせてしまったら、二度と帰っては来られないだろう。
それは、沙布に取られるという意味じゃない。
沙布の行き先は、恐らく矯正施設。あそこへ連れ去られて帰って来たものは、知っている限りはいない。
沙布のことを知ったら、紫苑は行ってしまう。そして二度と、帰って来ない。俺の元には。
いや、いなくなってしまうだろう。この世の何処にも――
「ネズミ? ぼんやりして、どうしたんだ。さっきから全然ページ、進んでない」
「ああ、…いや」
俺は、ソファに寝そべり、本を開いていたのだった。気をとりなおして、視線を文字に落とす。けれど、いざそうしてみてもちっとも集中できない。
「やっぱり変だよ、ネズミ。何か、あったのか?」
なんでそう余計なとこにばかり目敏いのか。俺は内心で舌打ちする。
「別に、なにもない」
「…でも、いつもと違う。悩みなら、僕に言っても解決しないかもしれないけど、ほら、話すだけでも楽になるかも…」
「だから、悩みなんかないし、なんにもないんだ」
「でも…」
意外と頑固な紫苑が納得する様子はない。ため息と共に、俺は本を閉じ、それをソファに放置して立ち上がった。それから、ベッドに腰かけ不思議顔の、紫苑の元へ行く。
そうして、しつこい唇を塞ぐべくキスをした。
「ん…っ!」
唇を強く押し付け、舌を差し入れる。今までで、一番深く激しいキスだ。
紫苑に追及を忘れさせるために。
逃がさないように全身で、仰向けに押し倒した紫苑にのし掛かる。手のひら同士を合わせて、指と指をを交差させてキツク絡める。
暫くは苦しげにもがいていた紫苑も、やがて大人しくなった。
もういいかと唇を離す。見下ろすと、そこには想像以上に扇情的な光景がひろがっていた。
「ッ!」
クッタリと力が抜けてしまったらしい紫苑は、乱れた髪をシーツに散らして、四肢をベッドへ投げだしていた。
すっかり潤み、今にも蕩けそうな、それでいて欲なんか感じさせないあどけなさを残す瞳が、俺をボンヤリと見上げるのだ。
「――ッ!」
俺は、危うく悲鳴をあげそうになる。すぐには覚醒しそうもない紫苑を置いて、俺は部屋を逃げ出した。
そういうつもりではなかった。けれどここにいたら、次に何をしでかしてしまうか自分で自分が判らない。
愛だの恋だのに、かまけている暇は俺にはない。あれ以上どうにかしてしまったら、責任なんか持てない。
――傷つけたくない。
けれど、この身体の正直な疼きが恨めしい。
ずっと、目を逸らしてきた答えが、示されているようだった。
[完]2011/09/19