NO.6
□アニメ ♯3
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ヒビが入った鏡の前。朝起きてすぐから暫くの間、紫苑は、その前に立ち続けていた。
頬にある、まるで何かが這った痕のような薄赤い痣に触れ、すっかり色が抜け落ちて真っ白になってしまった髪に触れ、同じく色が赤に変わってしまった瞳の目元に触れる。
それから数歩を移動して、再びベッドに座り込んだ。深く項垂れて、動かない。
そんな紫苑の頭に手を置くと、俺は髪をモシャモシャとかき回した。
「なにするんだよ」
「いや…」
もう一度、モシャモシャと。
「やめろってば」
手が振り払われた。涙目で憤るアンタは、俺をキッと睨む。そんな瞳は、まったくらしくないし似合わない。
「こんなの、やっぱり嫌だよ。死んだ方がマシだった」
「まだ言っているのか、あんたは」
まったく、うっとおしいったらないが――。
「なんだよ」
気がついたら、紫苑の髪を、またかき回していた。
「やめろって言ったじゃないかっ」
華奢な紫苑の腕が、俺の悪戯な手を払う。
「おおっと…紫苑、そう落ち込むな。その姿もなかなか似合ってるぞ」
「まさか、気休めなんか言うな」
「気休めじゃないさ。前より印象的で、いいと思うぜ。ただの茶の髪と瞳も悪くないが、こっちも、あんたに合っている。この…」
そうして紫苑の、頬を飾る痣を指先で辿る。
「体を這う痣だって、童顔と相まって色っぽいぜ」
紫苑は、ぽかんと俺を見る。
「なに言ってるんだ、ネズミ」
本当に、なにを言っているのだろうな。心の中で呟く。
感じたことを、そのまま言葉にしてしまった。用心深く慎重であると自負している俺にしたら、ずいぶんと浅はかだ。
「まあ、気にするなってことだ。いいか、今後まだウダウダ言うようなら、俺は出て行くからな」
紫苑は、きょとんとした表情をする。
「追い出す…じゃないんだ。ネズミの家なのに」
「あんたを追い出すより、俺が出て行ったほうが早いからな」
「…言わない」
そう言った紫苑に満足する。
何故、満足するのか。追い出せばいい。ただ面倒なだけじゃないか。そう問い責める自分もいる。
ジレンマからの苛立ちを隠すように、俺は自分の頭をガシガシと掻いた。
――まったく、調子が狂う。
[完] 2011/09/19 01:50