騎士×皇子
□『ｽｻﾞｸ、皇子と出会う』
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父に連れられて、初めて少年が皇宮へ行ったのは、十三歳の終わり、十四歳の誕生日直前の初夏のこと。
十四歳になったら騎士団に入るからと、今日は挨拶に来たのだ。
その父は騎士団の団長で、さっそく部下らしい人に捕まってしまって、子供一人で退屈していた。
初めての皇宮は好奇心を刺激する。父の様子を伺うと、まだ話は終わりそうもない。少しくらい、いいかな…と、少年は黙ってその場を離れた。
今まで居た場所は、訓練場や騎士会館、団員寮などがある一角で、目隠し代わりの垣根を抜けると、皇宮の立派な回廊に出る。
回廊へ足を踏み入れる少年を、止めるものは誰もいない。皇宮へ入る外門で、立ち入りを厳しくチェックしていて、身元の不確かなものは最初から入れないからだ。
小さな子供用の剣を腰に差した、身なりのいい少年が、目をキラキラさせながら歩く姿は、皇宮勤めの者達には酷く微笑ましいらしい。盗み見ては、クスクスと笑みを漏らす。
そんな視線にも気付く事なく更に歩くと、美しい庭が横目に見えてきた。
「わ」
思わず声を上げる。青々と繁る木々、咲き乱れる沢山の花、トンネルのように伸びる甃の小道。
子供なら誘われるだろう風景が、そこにあった。
「秘密の抜け道みたいだ」
小さく独りごちて、そろそろと小道へ足を踏み入れると、カツンとブーツの底裏が、甃にあたり音をたてる。
そのまま小道をどんどん行くと、噴水のある小さな広場に出た。そこには可愛らしい白石造りの東屋もある。
花の咲く木々に囲まれた、美しい場所。
「わあ…」
噴水の前に立って辺りを見渡していると、もう一つ別の小道があることに気付く。
「あれは、何処に行くんだろう？」
子供の豊かな好奇心は止まらない。躊躇う事なく、そこへ向かおうとした。
すると小道の先、緩やかに曲がる向こうから、パタパタと、軽い足音が聞こえてくる。
「誰か来る…」
少しだけ緊張しながら待った。
「あ!」
自分と同じくらいの歳、背格好の少年の姿が見えた時、思わず声を上げてしまった。
後ろを振り返りながら走って来たのは、黒髪の少年。彼は声で、やっとそこに、別の存在があることに気付いた。
振り返り立ち止まった黒髪の少年は、大きな紫の瞳でジッとこちらを見た。
「…誰?」
そして発せられた声と瞳には、警戒が滲んで。それを向けられた少年は、努めて精一杯の笑顔をつくる。
「僕はスザク。父について来たんだけど暇になっちゃったから、皇宮の見学…かな。君は？」
「………ルル」
一瞬迷ってから、黒髪の少年は、幼い頃の愛称を名乗った。本当の名前は、ルルーシュ。でもそれは、ブリタニア国民なら誰もが知る第三皇子の名。ずいぶん表まで出て来てしまった自覚があるルルーシュは、本名を名乗るのを躊躇ったのだ。
気付かれるだろうか、皇子だということに。少し緊張する。
目の前にいるのは、皇宮では一度も見たことのない子供だった。