NO.6
□アニメ #4
1ページ/1ページ
「どうせ似たようなことしてきたんだろうが、今更純情ぶったって…」
その言葉が鼓膜を震わした途端、何かが爆発した。そして、何かを考える間もなく男に掴みかかっていた。
この男は一体、何を言っているのか。ネズミが、娼婦と同じだと言いたいのか。
ネズミのことを何も知らないくせに。
ネズミは、そんなヤツじゃない。舞台"俳優"だっていうのには、驚いたけれど、だからって決めつけられたくない。
もし例え、本当は、そんな商売をやったことがあったとしても、こんな初めて会ったような男に、蔑まれたような態度を取られていいはずがない。
ネズミは適当にかわして相手にしていないけれど、僕は許せない。
ネズミは、危険を犯してまで僕の命を救ってくれたんだ。今だって文句を言いながらも、家に置いてくれているし、ご飯だって食べさせてくれて。
僕にとって、ネズミは――
「まったく驚きだ。アンタでも、あんな風に怒ることがあるんだな」
「だって…、君を馬鹿にした。君を…」
思い出すと、また怒りが込み上げてくる。
「まあ、ああいうことを言うヤツはよく居る。いちいち突っかかっるだけ無駄だ」
「どうして!?」
ネズミは、僕の問いを無視して、余裕げな微笑を口元に浮かべる。なんか悔しい。
「拗ねたのか、紫苑?」
ネズミが僕を覗き込む。距離が近い。距離が――
「なんだ?」
「…なんでもない」
目の前にある、ネズミの唇に目がいってしまった。昼間のことを思い出して、意識してしまう。
他人のキスなんて、初めて見たからかもしれないけれど、それがネズミだったというだけで、なんだか気が焦る。
「なんか変だな、アンタ。さっきから、俺の唇ばかり目で追ってるな」
「別に…」
慌てて目を逸らす。
「気になるのか、昼間の」
ネズミはニッと、人の悪そうな笑みを浮かべた。
「してやろうか?」
「え…」
言葉の意味を理解する前に、唇に微かな温もりが触れて、暫くして離れた。
「あんな厚化粧の女にするよりは、アンタの方がマシだな」
僕は、ただ呆然としてしまった。ネズミは陽気に鼻唄を歌いながら、食材を手にする。どうやら夕食の準備を始めるみたいだ。
「紫苑、いつまでもボーッとしてないで、食いたかったらアンタも手伝え」
僕は慌てて、ネズミの横に並ぶ。ネズミは、さっきのキスなんか無かったみたいに、平然としている。
なんか腹がたって、渡されたじゃがいもをナイフで一刀両断にした。
「なんか、怒ってるのか?」
「別に」
「変なヤツ」
「………」
絶対、変なのは君の方だと思ったけれど、僕は言わなかった。
[完] 2011/09/18 10:58