NO.6

□アニメ #4
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「どうせ似たようなことしてきたんだろうが、今更純情ぶったって…」

 その言葉が鼓膜を震わした途端、何かが爆発した。そして、何かを考える間もなく男に掴みかかっていた。

 この男は一体、何を言っているのか。ネズミが、娼婦と同じだと言いたいのか。

 ネズミのことを何も知らないくせに。

 ネズミは、そんなヤツじゃない。舞台"俳優"だっていうのには、驚いたけれど、だからって決めつけられたくない。

 もし例え、本当は、そんな商売をやったことがあったとしても、こんな初めて会ったような男に、蔑まれたような態度を取られていいはずがない。

 ネズミは適当にかわして相手にしていないけれど、僕は許せない。

 ネズミは、危険を犯してまで僕の命を救ってくれたんだ。今だって文句を言いながらも、家に置いてくれているし、ご飯だって食べさせてくれて。


 僕にとって、ネズミは――









「まったく驚きだ。アンタでも、あんな風に怒ることがあるんだな」


「だって…、君を馬鹿にした。君を…」

 思い出すと、また怒りが込み上げてくる。

「まあ、ああいうことを言うヤツはよく居る。いちいち突っかかっるだけ無駄だ」

「どうして!?」

 ネズミは、僕の問いを無視して、余裕げな微笑を口元に浮かべる。なんか悔しい。

「拗ねたのか、紫苑?」

 ネズミが僕を覗き込む。距離が近い。距離が――

「なんだ?」

「…なんでもない」

 目の前にある、ネズミの唇に目がいってしまった。昼間のことを思い出して、意識してしまう。

 他人のキスなんて、初めて見たからかもしれないけれど、それがネズミだったというだけで、なんだか気が焦る。

「なんか変だな、アンタ。さっきから、俺の唇ばかり目で追ってるな」

「別に…」

 慌てて目を逸らす。

「気になるのか、昼間の」

 ネズミはニッと、人の悪そうな笑みを浮かべた。

「してやろうか?」

「え…」

 言葉の意味を理解する前に、唇に微かな温もりが触れて、暫くして離れた。

「あんな厚化粧の女にするよりは、アンタの方がマシだな」


 僕は、ただ呆然としてしまった。ネズミは陽気に鼻唄を歌いながら、食材を手にする。どうやら夕食の準備を始めるみたいだ。

「紫苑、いつまでもボーッとしてないで、食いたかったらアンタも手伝え」

 僕は慌てて、ネズミの横に並ぶ。ネズミは、さっきのキスなんか無かったみたいに、平然としている。

 なんか腹がたって、渡されたじゃがいもをナイフで一刀両断にした。

「なんか、怒ってるのか?」

「別に」

「変なヤツ」

「………」

 絶対、変なのは君の方だと思ったけれど、僕は言わなかった。








[完] 2011/09/18 10:58

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