□私の青い―――<ボカロ TYPE.A>
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「あ? 『ソレ』どうしたんだ、カイト」
 就寝の挨拶をしに来たカイトに目を向けたマスターは、言ってもいないのに目敏くソレを見つけ、眉を潜める。
「あ、その・・・夕飯作る時少し・・・」
 左手の、薬指の『青』が斑に取れている。
 カイトは後ろめたそうに視線を逸らし指先を握ると、でも、表面だけですからと言い訳する。
「なら、問題ねーだろ。いいから見せろ」
 マスターはカイトを手招き、カイトがおずおず近づいてくるのを確認すると、身をよじり机の引き出しを開け、ヒョイヒョイと取り出す。
 コットンとリムーバーと、『青』のマニキュア。
 それを机の上に無造作に置くと、改めてカイトの手を取り、確認する。
「―――よし。確かに表面だけだな」
 じっくり眺めても、爪には不自然な切り後は見当たらない。
 マスターは満足げに笑うと、カイトもホッとしたように息をつく。
 そのままマスターはコットンにリムーバーを染み込ませると、薬指にコットンをのせ、暫く置いた後、スッと引く。
 マニキュアは綺麗に取れていた。
「よしよし。じゃ、次はコレー」
 マスターはカイトの手を引き、自分の膝の上に跨ぐように座らせて、青のマニキュアの瓶の蓋を開ける。
 カイトの薬指の第二関節を掴み、そっと刷毛を乗せる。
 真っ白な、細く長く形の良い指に、卑猥な青いマニキュアを施す。
「・・・・・っ」
 爪越しに感じる、ひやりとした感覚にカイトはピクリと身体を揺らす。
 スッ・・・―――
「・・・・・ン・・・っ」
 刷毛が爪の上を滑るたび、えも言えぬゾクゾクした感覚が身体を走り、カイトは堪らず息を詰める。
 眉を潜め、濡れたような青い瞳を惜しげもなく晒し、少女のように染まった頬とは対照的に噛み締めた唇の淫猥さ加減に、マスターは愉しげにククッと哂う。
「よーし、完成―。さすが俺。天才だな」
 オマケとばかりに息を吹きかけ、ムラがないように乾かす。
「マス、ター・・・」
「んー?」
「あの・・・・・っ」
 カイトが何かを言いかける前に、マスターは掴んだ第二関節から付け根まで、指を這わせるようにツーッと滑らせる。
 またもやピクリと身体を揺らす自分の反応に、困惑したような不安そうな顔をするカイトに、マスターは含み笑いをすると、そのまま手の甲に唇を押し当て、ククッと笑う。
「オマエの手、冷たくて気持ちイイ」
 そしてそのまま身じろぎもしないマスターに、カイトは動揺して、無意識に手を引く。
「マスター、もう遅い時間です。昨日まで遅かったんですから、今日はゆっくり休んでください。それとも眠れないのですか?」
「あー。そうね、眠れないなぁ」
 眠れない?
 カイトは引こうとした手を、逆に強い力で抑えられたまま放してもらえない現状に、尚動揺しつつも、眠れないというマスターがにわかに心配になり、俺、何かしましょうかとマスターを覗き込む。
「何? 俺が望むこと、してくれるんだ?」
 手の甲に唇を押し当てたまま上目遣いにニヤッと笑うマスターにドキリとしながらも、純粋に頷くカイトにマスターは笑う。
「ハハッ! じゃー次、付き合え」
 
 今は逃がしてやるよ。

 マスターは楽しげに笑うと、唇を離し、意味深に笑いながら指の付け根からゆっくり薬指を撫で引く。
 愛撫するように、ゆっくり、じっくり―――――
 マスターが指を離し際、ギュッと指先を強く握られる。
「っ」
 ビクッっと身を竦めるカイトにマスターはふっと笑うと、自然にカイトの身体を膝から下ろし、おやすみと笑う。
 突然の、別れ。
 突然の体温の喪失。
 カイトは困惑したように一歩二歩と下がると、ギクシャクとしながらおやすみなさいと頭を下げる。
 ニィと笑うマスターの顔がいつもどおりに見えて、カイトはホッとドアを開ける。
 ドアを締め様、肩越しにマスターを振り返る。
「――――――――ぁ・・・」
 そこには、小さく笑いながらマニキュアの瓶に口付けているマスターの姿がある。
 カイトは慌ててドアを閉めると、ドアに寄りかかり、はぁっとため息を付く。
 そっと視線を下げると、そこには濡れたように艶やかに光る『青』が瞳を弾く。
「―――――」
 カイトは熱をもてあますように震える吐息を吐き出すと。
 
そっと指先に口付けた。


                         END

『私の青いマニキュア』10.01.13

あの爪は仕様だろ! って分かっているのにどうしてもやりたかったのでやったネタ(笑)
どうしてあんなにドコもかしこも可愛いのだ、兄さん!!
・・・って、いつの間にかマスカイに(笑)
レンもいいんだけれど〜。
いつか書くからね、レンvvvvv

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