サンプル。

□『Dilemma,A』
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 真夜中。
 日付が変わり、大方寝静まったような朝に近い、その時。イアソンはようやく自分の部屋に戻ることが出来た。 
 それというのも、最近なんやかやと小煩い連邦の重鎮たちがまたいつもの如く、ネチネチとイヤミを言ってくるものだから、懇切丁寧に説明しているうちに、こんな時間になってしまっているのだ。   
 内心うんざりを通り越して憤怒さえ覚えるが、そこでチクリとイヤミでも返そうものなら、飛び火して更に関係の無いところにまで脱線してしまうので。
(ボケかけたジジイ供は、さっさと引退なり何なりして残り少ない人生でも楽しめばいいものを)
 思わず口をついて出そうになる暴言を口先で捻り潰し、いつものように平静に淡々と同じことを繰り返す。

 平静に、―――――いかにも、なアルカイック・スマイルで。

  淡々と、―――――彼そのものがアンドロイドである事を裏付ける様な口調で。

   繰り返す。―――――狂いのない同じ感情を込めて。

 熱のこもらない、ともすれば慇懃無礼としか感じないようなその態度が連邦の人間を殊更煽っているのだが、しいて興味のないイアソンはそれに関して理解をすることは、ない。
 悪循環である。
 しかし、それを分かっているのはあくまで周りの人間だけで、お互いが自分の正当性(あくまで)を主張し続ける限り、齟齬間は一生どうにもならないだろう。
 そんなこんなでこの時間である。
 もはやため息も出ない。
 それに。
 最近、訳の判らない『イライラ』のせいでイアソンはすこぶる機嫌が悪い。表面上はなんら変わりないのだが、話しかけるたびに向けられる視線の冷たさと、声音の低さは周りの人間が凍るほど、寒々しい。
 そのお蔭か、余計な奴に話しかけられるうっとおしさからは開放されてせいせいしていたが。肝心の連邦の連中にはどうでもいいことのようで、吐き出しきれないイライラが倍に膨れ上がっただけだった。

 訳の判らない『イライラ』。 
 いや。
 判らないと思っていたい、の方が正しいのだろう。
 前々から判りきっていたはずなのに。今更になってズクズクと実感する。 


 リキの思い(こころ)は、ここにはない。


 寝室に入ると、リキはベッドの上で熟睡していた。
 身体を丸め、無防備に寝入っているリキは、イアソンが枕元に立って室内灯を付けても起きる気配も見せない。
 規則正しい吐息と、あどけなさの残る、顔。
 起きている時は今まで耳にする事すらなかったスラングで捲くし立て。雑種は一生雑種、というような視線は、三年たった今でも強い輝きを失わない。
 誰もが憧れ、憎んで已まない輝き・・・。
 そんな瞳も口も、今は大人しく眠りの底に沈んでいる。
 ともすれば。それは、一切のもの(しがらみ)を必要としない子供のようで。
 ――――自分(イアソン)さえも。
 そして、誰もが羨む生活ですら。

 自分には必要ないのだと言っているような顔を止めさせたくて、思うに任せて力の限り揺さぶり起こす。
「う・・・っん・・?」
 リキは呻き、訳が分からない、というようにのろのろ視線を泳がせ。イアソンを確認すると、露骨に眉を顰める。
 無理やり叩き起こされて、不機嫌なのは分かっていたが。
 今の今。あからさまな態度を見せ付けられると、抑えていた感情に暗い燈が灯るのを抑えることが出来ない。
(それほど私は、目触りか?)
 煩そうにため息をつくのを、無理やり引き摺り起こし、まだ力の入りきらない身体を、ベッドに腰を下ろしたイアソンの膝を跨ぐ格好で座らせる。
「なに?何だってんだよ」
「いや。私が苦労して仕事を終えたというのに、お前は平和そうな寝顔を晒して寝入っているものだから、仕事の一つでもしてもらおうかと思ってね」
「・・・なに、怒ってんだよ?」
「――別に」
 うっそりと笑い、背中を撫で上げる。
 起きかけの頭に血が回ってきたのか、イアソンの悋気に中てられたのか。リキは漸く気付いたようだ。
 イアソンの機嫌が最凶に悪いという事を。
 仕事の事か。それとも、自分がそれと知れず逆鱗に触れてしまったのか。
 リキには絶えず張り付いたような笑みからは推し量ることが出来ない。 
「――――――――・・・」
 それきり一言も発しないまま、ひたすら、背中を撫で上げるイアソンに、リキも声を掛けることが出来ない。
 ゆったりとした愛撫に感じるわけではなく、強張ったままひたすら凝視する黒瞳の中に僅かな怯えを感じ取り。
 どうしようもない程に嗜虐心が掻き立てられる。

 このまま、力任せに引き裂いてやったら、落ちるとことまで堕ちるだろうか。
 啼いて、鳴かせて縋らせれば、少しは変わるだろうか。

 自分の考えに目眩のするほどの官能を覚え、哂う。
(本当に、どうしようもないな)
 手袋を外し、珍しくも放り投げると。素肌の上から羽織っただけのバスローブの裾から手を差し入れ、殊更ゆっくりと腰まで捲り上げる。
 自身の前もくつろげ、既に怒張したモノを見せ付けるように軽く扱き上げると、リキはいつまでも見慣れることのないその大きさに慄き、ゴクリと息を呑む。
 リキに大きさを知らしめるように手を添え、握らせると、イアソンは背中に手を回し、両手で尻の割れ目を左右に開く。
 力任せの荒業にビクリと身を竦ませるリキの耳元で。
 愉悦の滲んだ、甘い声で、囁く。
 開いた割れ目から覗く、未だ硬い蕾を中指でゆったりと撫で擦りながら。
「今日は、このままいくぞ。いいな」


            ・・・つづく。

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