サンプル。

□『A Cold Hearted Fellow』
1ページ/1ページ

 医務室の扉をくぐり、ランゼが中へ入っていくとリキは緊急用のベッドに拘束されたまま横たわり、眉を顰め、荒い呼吸を繰り返しつつも、ランゼを睨み付けてきた。
どこまでも反抗的な視線に、だがランゼは眉一つ動かしはしない。
「別にペットなどに興味も感心も無いのですがね。最近、イアソンに借りが出来まして。ここで返しておくのも好いと考えたんですよ」
 プラチナの長髪を後ろで束ね、メタルフレームの眼鏡をかけた容貌は、どこまでも冷ややかだ。
 今だ睨み付けるのをやめないリキの顎を掴むと、強引に引き上げる。
「健診開始時間、14:00。事前に告げてあった今この時間に、貴方がここにたどり着ける可能性はゼロでした。文句を受ける筋合いはありません」
「・・・・・・ッ」
 リキの顎を掴み、目線を合わせたまま、真上から叩きつけるように言い聞かそうとするやり方は、犬猫の対する『躾』のような色合いを孕んでいて、リキは屈辱に唇を噛み締める。
 ランゼは大人しくなったリキを一瞥すると、真新しい白衣を取り出し、羽織るときっちりボタンを留める。
そして手を殺菌消毒すると、薄いゴム手袋を手首まで引き上げ、徐にレインに服を脱がすよう、告げた。
「な、・・・っ、やめろ・・っ」
 淡々と転落防止の拘束を解き、服を剥ぎ取っていくレインにリキはぎょっと目を剥くと、焦り、がむしゃらに抵抗する。
力が入らないせいもあるが、栗色のウエーヴヘアをアップした美貌の看護婦の、見た目を裏切る予想以上に腕力のある腕は、リキの抵抗などものともしなかった。
 あっという間に裸に剥かれリクライニング・シートに移されたリキは、クスリのせいで未だ勃起状態にあるペニスを晒す屈辱感を意識しないようにと耐えていたが。目の前でランゼがリキを見下ろし、眉を顰め、汚らしいモノを見るような目付きで見つめてくるのに、顔面を焼くほどの羞恥心に晒される。
 クスリのせいだ、と分かっていても。理性と分別のある心がこんな自分自身を否定してしまう。

 隅の隅まで整頓された綺麗な部屋。
 冷たく光る、銀色の器具一式。
白一色で統一された内装。
 そして、一糸の乱れも感じられない白衣姿の主治医と助手。
 
 この空間で、唯一、汚れているものは自分だけ、だと。
 考えただけで、消えて無くなりたいほどの羞恥心が掻き立てられる。
それなのに・・・・。
身体の奥から湧き出すような疼きと、体内を多くの虫が這うような怖気にも似た快感。息を吐くたびに強くなっていくような刺激の数々に、身体は簡単に理性など食い破り、あの爛れる様な熱を懇願してしまいそうになる。
「ッ・・・・・」
リキはそれをギリギリの所で押しとどめると、吐息を噛み殺し、理不尽と知りながらもランゼを更に睨み付ける。
そんな、必死で虚勢を張るリキを興味なさげにランゼは振りほどくと、レインに薬の種類を問いただす。
レインはバーで回収したむき出しの錠剤を取り出すと、ペットは識字能力がないので今は色形で判断するしかないのですが、と前置き、見解を述べる。
「どうやらカレロア産のプルートを服用したものと思われます。アルコールではなく水と一緒に摂取したようで、それを考えますと、かなり強い効能が断続的に半日から約一日、もしくはそれ以上続く事と思われます」
「そのようですね。―――これは継続的ではない分、持久力には優れているので少々苦しいかもしれません」
 レインの見解に同意すると、なんてことの無いような顔で、ランゼは淡々とこれからの症状をリキに説明する。
「マジ・・・、かよ・・ッ」
 冗談ではない。こんな状態が半日も続いたら死んでしまう。
 スッと血の気の引くような気分でランゼを凝視すると、安心してください、などとどこら辺が安心出来る所なのかわからない医者ならではの慰めじみたものを吐き出す。
「合法的な薬ですので、死ぬ事はありません」
「ふざけんな・・ッ」
 リキが思わず怒鳴り散らすと、ランゼはさも不快げに鼻を鳴らす。
「ふざけてはいませんよ。事実です。自分で服用しておいて我々に当り散らすのはやめてもらいましょうか」
「好きで、飲んだわけじゃ・・・ッ、ねぇ・・ッ」
「服用した、という事実が全てです。あなたのそれまでの経緯は今、必要ありません」
 歯の軋む様な苦渋も、ばっさりと切り捨てられてしまう。
 取り付く島など何処にも無いランゼの台詞にリキは唇を噛む。
 ・・・そう、別になんであろうと弁解の必要は一切無いのだが、思わず出てしまう言葉というのは以外に多いのだ。
 それを、こいつと居るとつくづく実感して嫌になってくる。
 リキはどうしようもない状況に焦れながら、熱と共に諦めにも似たため息を深々と吐き出したのだった・・・。
 



「では、始めましょう。―――レイン、首輪を」
「はい」
 レインはテーブルから黒のレザーで出来た太目の首輪を手渡す。
 ペットリングを渡される前に散々リキを苛んできた首輪に似ているそれを、ランゼは受け取り、リキの首に手を伸ばす。
 反射的に拒むリキに、大人しくしてくださいと注意しつつ、レインに手を押さえるよう指示を出す。
「只の首輪です。今更でしょう」
「じょ・・・だん、じゃ・・・ッつ」
 皮のヒヤリとした冷たさにビクリと肩を竦め、うなじを通る皮の擦れた感覚に吐息が震える。そして、首の前で少しキュッと絞められた、瞬間。
間違えようの無い快感が身体を駆け抜けた。
「ッう・・・ぁ、・・はぁ」
 絶妙な締め加減で、冷たい皮が身じろぐたびに擦れる感覚に吐息が漏れてしまう。
徐々に強まっていく快感をリキがやり過ごしているうちに、どんどん作業は進んでいく。
「手枷、足枷を」
「はい」
 同じくレザー製のものを手首と足首に嵌められ、理性が擦り切れそうになる。
 枷の付けられた場所が疼く。全て装着する頃には体温で暖まった皮は、動く度に皮膚を擦り、堪らない刺激を全身に送り込む。
 枷を中心に、体内で小さな虫がざわめいているような、おぞましい快感・・・。
手をきつく握り締め、リキはやり過ごそうとするが、それでも吐息が漏れてしまう。
「は、・・っあ・ぅ・・」
 頬を上気させ、震える舌で唇を潤す。
手首を押さえ込まれ動きがままならないまでも、耐えられない疼きに堪らず身を捩る。
「なんだ、枷だけでこの有様とは。とんだ淫乱ですね。やるだけしか能の無いアカデミー産のペットでももう少し堪え性というものが
ありますよ」
 呆れたようなランゼの口調に唇を噛み締める。
 薬の副作用、の筈なのに。自分が恥知らずな淫乱呼ばわりされているような錯覚に陥ってしまう。
 否定したいのに・・・疼く身体を持て余し悶えるしかない自分に、そんな事をいう資格があるのか。
「汚らしい雑種など、よく飼っていられるものだ」
 誰にともなく呟く言葉に、リキは目を伏せる。
 ランゼは銀色の止め具を手に取ると、リキの左膝を持ち上げ身体を折り曲げると、止め具で左手首と左足首を繋いだ。
 金属のかしゃん、という音に信じられないと顔を向けるリキを一瞥しつつ、レインに手首の拘束はもういい、と告げる。
「もう、大した抵抗にはなりはすまい。次はこのまま膝を押さえて下さい」
「や・・・・ッ!!」
 繋がれた左膝を、開脚するように固定され、がむしゃらに抵抗するがやはり動かすことは適わなかった。
 後蕾にヒヤリとした感覚を感じ。はしたなく足を開いて晒しているというのをまざまざと実感する。
 勃起したペニスも疼くアナルも、診察台にいるリキには隠すことさえ出来なかった。
 ランゼは潤滑洗浄ジェルを取ると、残量を確かめ蓋を取る。
 右足を左肩に担ぎ上げると、左手でアナルを開く。
 ゴム手袋のひやりとした感覚にリキが身震いした瞬間、ジェルのボトル口をアナルに捻じ込まれ、大量のジェルが体内に注ぎ込まれた。
「!っぁあああぁぁぁ・・・!!」
 ジェルの冷たさに身体が震え、堪え切れない悲鳴を上げても、傍若無人にまだ注がれ続ける。
「・・・ひ、・・く・・ッぅううぅ・・・・ッッ!!」
 液体のゴポッという音と供に注がれ続けたジェルが全て体内に納まった頃には、リキは声を上げることすら出来ないようなほど、直腸内に圧迫感を感じていた。
 はっはっ・・という細かい呼吸でしか息も満足に付けない。
 冷や汗が浮かんでくる。
それなのに感覚だけは研ぎ澄まされたように、鋭い。
朦朧とした意識の中で、アナルに捻じ込まれたボトルが抜き去られようとする感覚に。リキは思わず眼を見開き、締め付けるようにアナルに力を込める。
ジェルが、すべて流れ出てしまうような恐怖に、顔も身体も強張る。
「意地汚い口がボトルを放してくれませんね。ご希望なら新しい別のものを差し上げますから、少し力を抜いて下さい」
 ランゼは身体を強張らせるリキを失笑すると、ボトルの口を一度ぐりっと力任せに回す。
「ヒ・・・ッ!」
 リキがびくりと身体を仰け反らせた所で、一気に引き抜く。
「〜〜〜・・・ふ・・・・ッ・・・ぅう・・・ッ」
 体温で溶けたジェルが流れ出すのを恐れるかのように、リキは下腹部に力を込め、ひくつくアナルを引き絞る。
 それでも徐々に襲い来る排泄感に眉を顰め、堪えているリキに、ランゼがアナルにバイブをゆっくり押し当てた。
 黒く色々な突起の付いたそれはグロテスクで、いつもであれば断固拒否する所だが、今、この衝動を堰き止められるのがこれしかないのだ、と思うと。
「入れて、欲しいですか?」
 ―――そんな、ランゼの悪魔のような囁きに。
 リキの思考は焼き爛れ、枯渇する身体が我慢できぬというように理性を追い立てる。
 リキはカラカラに乾いた咽を潤すように、ごくりとつばを飲み込むと。

「ほし、い・・」

 思わず、本音が零れ落ちた。

・・・つづく。

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ