■絶チル短編ストーリー■

□◆ホワイトクリスマス(賢木×皆本)◆
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朝から時計ばかりが気になっているのに、そんな時に限って大概うまくいかない。
「賢木先生!急患です!」
「先生、入院中の患者さんが…」
「賢木先生、任務中に負傷したものが…」
むしろ、解放する気なんかないんだろうと、目まぐるしく病院内をかけずり回される。
「…あぁ…飯も食えてない…」
気がつくと、昼間もすぎていてむしろ『おやつの時間』になっていて、回診中の小児病棟の子供達に配られている長靴のお菓子に目が離せなくなる。
「先生…?」
「…んぁ…ユリちゃん」
「先生お腹すいたの?」
カルテ片手に気のない返事をする俺に話かけてきた担当の女の子ユリちゃんが、大きな瞳でじっとみつめている。
「もう先生はお腹がすきすぎて…倒れてしまうよ」
「…じゃあ…ユリのあげる」
長靴を差し出すユリちゃんの目線にしゃがみ込むと、優しくその手を包みこみ、笑顔で話す。
「これはユリちゃんがサンタさんから貰ったのだから俺は貰えないな」「じゃあ、これなら貰ってくれる?」
そういって長靴からハートの形をしたチョコを2つ、俺の手のひらに乗せてくれた。
「これね。ユリのママが作ってくれたの。幸せになるハートだって…先生のお腹も幸せになるといいね」
まだ6歳の幼い少女に空腹の心配をされる俺は情けないと思うが、彼女の優しさには心があったかくなる。
「先生。メリークリスマス」
「有難う…メリークリスマス…ユリちゃん」
初めは苦手だった子供もいいなとユリちゃんに手を降りながら改めて感じながら、カルテを病棟に預けると、白衣のポケットにしまいこんだ携帯をひらく。
「…あと4時間」
今日は会いたい。
だからどうしても俺を引き止めないでと願うが、無情にもそれは叶わぬ願いになってしまった。
「賢木先生っ!!ユリちゃんが…」
それはチョコの天使、ユリちゃんの様態急変の知らせ。
「…オペだな」
力を発動させると、予想外な結果に驚きながら、緊急オペに入る指示を出す。
そして、携帯に一言謝り電源を落とし白衣の中にしまいこんだ。
予定よりも時間はかかったが、無事に終わり体力回復を待つだけとなった。
「大遅刻だ…」
腕時計を見ると、今日が明日になるまでラスト1時間。
携帯の電源も切っていたし、かなりの時間一人きりにさせたんだ…もう待ってはいないだろうと、すやすや眠るユリちゃんの病室であきらめかけていた。
「皆本に…会いたかった…」
最近すれ違いばかりで、なかなかあいつに会えずにいた日々。
珍しく携帯のスケジュール、12月25日に印しを付けていて、久しぶりにあいつの笑顔が見たかった…と、壁にもたれかかり、髪の毛をぐしゃっとかきあげる。
「会えるよ…僕が会いに行くから」
その声に目を丸くして振り返ると、そこにはいつもの姿があった。
「お…前…」
コートの肩にうっすらと積もる白い雪に気づき外を見ると、まさにホワイトクリスマスの光景だった。
「賢木のことだから、きっと仕事だろうって思ってさ」
「皆本…」
言わなくても俺の心を見透かすあいつには本当にかなわないと、クスッと笑顔が漏れる。
そして、その手を取ると病棟で飾った大きなクリスマスツリーがあるロビーにやってきた。
「悪かった…待たせて」
「大丈夫だよ。オペは成功したんだろ?さっきの女の子」
「あぁ…」
クリスマスツリーの灯りが暗いロビーの中で、色とりどりに光輝く。
それをソファーに座りながら眺めていた皆本の頬に手をあてる。
「冷たいな…」
ひんやりとした頬に軽くキスをすると、ほんのり暖かくなる皆本の顔を見つめながら微笑む。
「オペは成功したけど、お前の手料理食べ損ねた…」
一緒に買い物して皆本の手料理を食べたいとワガママを言ったのは自分からだっただけに、ショックは大きい。
「僕は…賢木が先生としてみんなに頼られてることの方が…うれしいよ…お前にしか出来ないことなんだから…」
そうやって俺を傷つけまいと優しく包みこむ。
だからお前にいつも癒やされる。もっと…側にいたい。
「あ。これ…幸せになれるハートチョコ」
白衣のポケットからユリちゃんに貰ったハート型のチョコを取り出し、1つを皆本の手のひらに落とす。
「ケーキと、お前の手料理と…プレゼントはまた今度…」
本当はプレゼントも一緒に選びたかったなんて、これ以上のワガママは言えない。今できるプレゼントがこれしかなかった。
「うん…有難う…なぁ…賢木」
「ん?…なっ…ん…」
すっと立ち上がり、ゆっくりと顔が近づいてきたかと思うと、それはとても甘くて、雪をも溶かすような温かいキスが舞い降りた。
「お疲れ様…」
「お前は本当に…ったく…調子狂うな…」
離れた唇をじっと見つめながら、こいつを愛したことの幸せを実感する。
お前だからお前に会いたいからと願えば、いつでも会えるのに、今夜は特別な幸せを綴りたかった…本当に奇跡だ。
と、しみじみ感じていたとたん。
「あ…あぁ…腹へった…」
「忙しさにかまけたな」
ぐぅっとムードをぶち壊すお腹の音に皆本はクスクスと笑い出す。
「もう帰れるんだろ?」
「そうだな…」
「帰ろう。手料理…作るから」
そう言って、手を差し出す。
「皆本が食べたい…」
「…か、考えとく…」
いたずらに言ったら、そうやってまた顔を赤くする。
そう。
クリスマスだから…特別なお前と一緒にいたい。
今日はホワイトクリスマス。
雪が溶けるくらいに一緒に幸せになろう。

*END*
2009*12/15*乙夜

≫書き終えてから、『賢木は子供好きだっけ?』と首をひねりました(笑)とにかく甘い甘いのが書きたかったんです。
雪とツリーと皆本はセットです(笑)
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