■絶チルBL■

□◆玩具の気持ち(チビ兵部×賢木)◆
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「…このちっこいのがあの兵部ねぇ〜…」
 頭ではわかっていても…どうしても身構えてしまう自分がいる。
 犯罪者。異常性格者。性格破綻者……今、目の前にいる子供の姿をした兵部…京介を見てもそれを思い出してしまう。
「……偏見だな。」
 そう一言呟き、俺はため息をついた。
「あの…賢木先生?」
 俺のため息に気付いたのか京介がこちらを見詰めている。
 純粋な瞳…そこには暗い影はない…

「どうかしたんですか?…まだ具合が悪いとか?」
「あ、いや……何か、お前に『賢木先生』って呼ばれんのが不思議な感じがしてな。いつもはヤブ医者ヤブ医者ってよぉ〜…」
「…ヤブ医者…ですか?」
 『ヤブ医者』…その単語に引っ掛かったらしい。少し頭を押さえて黙り込む京介…
「…大丈夫か?」
「何だか少し…頭が痛いです…」
 そう言って潤んだ瞳で俺を見詰めてきた。だから俺は仕方なしに京介に近付く。
「お前の記憶の中には俺逹との事が残ってないからな……無理に思い出そうとすると頭痛がするのかも…」
 京介が掌で押さえていた辺りに触れ、俺はそう言う。
「でも…何だか思い出しそうで…ヤブ医者って言葉がグルグル頭の中を回ってますぅ…」
 余計に潤んだ瞳で俺を下から見上げる京介……ホント、あの兵部とは似ても似つかない。
「いや、悪かった。無理に考え込むな。お前はお前だ!それ意外の何者でもない!」
 俺はそう言って京介の頭を撫でてやる。
 今のコイツはただの子供で、これからの先なんかどうとでもなる…まだ『未来』は決まっちゃいない…
「…不安にさせて悪かったよ。」
 俺はニッコリ微笑んでやる。それに安心したのか京介もはにかんだ笑いを俺に向けてきた。
「賢木先生が触れたとこ…何だか、あたたかいです」
 素直にそう言われてしまえば……俺の方が恥ずかしくなるわけで…。
「ま、まぁ…その何だ…」
 俺は視線を外し、京介の頭をこれでもか…という程撫でていた。
「あはは…賢木先生テレてるんですか?…何だか可愛いですねv」
「今の姿のお前にだけは言われたくないぞ!」
「………ありがとうございます。」
 そう言ったかと思うと、京介の手が俺の両頬を挟み込んで…唇に軽く触れた。

「なっ!」
 呆気にとられる俺をよそに京介は無邪気に笑う。
「感謝の印ですv」
「バ、バカかっ!こういうのは気軽にしていいもんじゃ…」
「でも…外国の映画でしてましたよ?」
 不思議そうに見詰められる。
 他意がない…そう思いつつも……俺にとっては嫌がらせ意外の何物でもない!だから俺は京介の肩に手を置き説教し始めた。
「いいか、こういう事はしちゃダメなんだ。」
「どうして?」
「どうしてもだ!人前でもだぞ!」
「でも…人前じゃありませんよ?今、誰もいませんし…」
「ここではダメなんだよ!」
「…ここじゃなきゃいいんですか?」
 押し問答…人のあげ足取り…やっぱりチビでも兵部は兵部だ!
 俺は深いため息をつく。

「あのなぁ〜…」
『……皆本くんの前で同じ事したらどうなるかな?ま、確実にヤブ医者くんが怒られるだろうけど。』
「なっ!兵部っ?」
 子供の声と体が…いきなりいつもの奴に変わり、肩に置いていた手も払われる。
『まったく…いくら小さい僕が可愛いからって口説くとは…流石ヤブ医者、節操がないね。』
 ニッコリ微笑む奴は…いつもの兵部で………思わず俺は頭を抱えた。
「……やっぱ、油断出来ねぇ…」
『油断してるのはいつもの事だろ?今だって小さい僕に簡単にキスされたじゃないか…』
「だぁぁ〜っ!それを言うな!だいたい、お前の嫌がらせだろがっ!」
 俺は兵部を睨み付けながら叫ぶ。いつもいつもコイツが関わるとろくな事がないんだよ…
『……嫌がらせ…だったらよいんだけどね…』
「は?何言って…」
 兵部は小さくため息をつくと、苦虫を噛み締めるような顔で呟く。
『どうやら小さい僕は…君の事を少なからず……嫌ってはいないらしい。』
 そう言って兵部は俺の顎を持ち上げた。そして唇が触れるギリギリの所で話を続ける…
『僕はこんなにも…君を嫌っていると言うのにね。』
「そ、それはこっちのセリフだっっ!」
 そう叫んだと同時に兵部の唇が重なった。
 チビ兵部のとは違い、濃厚に舌が絡まる…
「つっ!んぅ…!」
『…嫌がらせっていうのはこうやるもんだ。』
 軽く笑うと兵部は唇を離す…
「このっ!」
『おっと。もう時間だ…またね〜…ヤブ医者くん♪』
 俺の拳は空を切り…今まで兵部がいた場所には……

「…賢木先生?」
 きょとんとした京介がいた。
「クソッ…あの野郎逃げやがったな…」
 俺の一言に、キョロキョロと辺りを見回す京介は小首を傾げ…
「あの…誰かいたんですか?」
 …と、きたもんだ。
 二重人格よろしく、チビ兵部…もとい、京介は覚えてないらしい。
「…あんにゃろ…あえて京介には記憶を残さないってか?」
 ふざけんなよ。人の事を玩具にしといて…自分だけやり逃げか?いつもいつもアイツはよ……
 悶々と考え込む俺の服を京介が引っ張る。
「賢木先生…顔が怖いです…」
 泣きそうな顔で俺を見詰める京介……ホントに覚えてないみたいだな…ったく。
「何でもねぇよ。お前に…京介に怒ってるわけじゃねぇから…」
「ホント?さっきのを怒ってるわけじゃないんだ…よかったぁ〜…」
 ホッとしたように笑う京介。それがやっぱり子供で……俺は深いため息をついた。
「さっきの…怒ってはいないが、ホントに止めとけよ。皆本がキレるから。キレたアイツが怖いのはお前もわかってるだろ?」
「う〜ん……わかりました。…フジコさんは喜んだのになぁ…」
 ………。京介から出た名前に俺は頭を抱える。てか、京介のこの行動の原因は管理官かよっ!
「京介…お前は他人を信用しすぎだ。」
 俺は京介の額にデコピンする。それを大袈裟に痛がりながらも京介は笑顔だ。
「えへへv賢木先生、大好きですよv」
「止めろっ!縁起でもねぇっ!」
「どうしてですか〜?感謝を込めたキスがダメなら言葉にするしかないのに…」
 俺の肩を揺さぶりながら京介は何度も聞き返してくる。………つーか、本音なんか言えるか!
「賢木先生〜…」
「あ〜…ハイハイ。わかったからおとなしくしてろ!」
 まとわりつく京介を羽交い締めにし俺は心の中で呟いた。

『この俺様が…まさか、チビ兵部にほだされてるなんて………死んでも言えねぇ。』

 ………と。

◆END◆

2013*1/27*しのぶ

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