Rot U

□In der privatzeit〜2人の時間
4ページ/5ページ



「仔犬ちゃん、よぉ〜く考えてごらん」

「きゅ?」

まだいくらか笑いを残した声で話し始めると、グレルは目をくりっと開いて、聞き入る。

死神派遣協会の上司たちのような説教口調でないので、聞く気になる。

もちろん、大好きな葬儀屋の、体の奥までズクンと響く声であるからでもある。

「足の爪先を真っ赤に染めている男が棺の中に横になっていたら、きみはイケメンだと思うかい?」

「………………」

イケメンなら、たいていのことは許容されると思っているものの、そこに「真っ赤なぺディキュア」が必要不可欠かと問われれば、よくわからない。

そもそも、何が何でもペディキュアにこだわりたいのではなく、葬儀屋の体にぺとぺとスリスリできれば、何でもよいのだ。


ちなみに、死神寮でグレルのこの手のイタズラ心の餌食になった者は、数知れない。

ある非力な後輩など、寝込みを襲われて襟足を刈り上げられてしまった。挙句、「ワカゾー相手じゃ、なんにも感じないワ」と、オモチャにされるだけされて、捨てられたのだ。

それをごまかすために髪をメッシュに染めて以来、そのヘアスタイルが定着したとも言われている。


「…………わかり、ました……」

「よしよし、イイ仔だねえぇ」

乾いた唇を潤すために、赤くて長い舌をチョロリと覗かせたところを、ちょんっと黒い爪で突かれる。

「にゅんっ」

反射的な声とともに開いた唇を、今度はピルリと舐められる。

「にゅ、ううー……」

葬儀屋の冷たい体温が、舌の先からグレルの体内を駆け抜けて、奥の奥に火を点す。

脇腹を抱えられて、ひざまずいた体勢から中腰の姿勢で体を支えられて、見えない視線が交差する。この日はまだ舌入りの本気のキスをしていなかったものだから、期待に胸をいっぱいにして、唇を差し出す。

「…………?!!」

ゆっくりゆっくり降りてきた葬儀屋の唇は、赤い髪の生え際のこめかみやら、まつげやら、額やら。唇以外のありとあらゆるところをついばんで、愛しんでゆく。

そのたびにグレルは、ピリッとしたり、ふにゃっとしたり、クネッとなるのを、クキッと立て直したり。忙しなく降り注がれる刺激の連続に酔う幸せを、満喫する。

病的に白い指を持つ片手は、グレルのあごを固定する。もう片方の手は、耳やら頬やらを撫でくり回しているかと思うと、耳たぶの下から裏側のあたりを探るように動く。

「ソコって……フェイスラインのリンパを流してあげて、すっきり血行のいい小顔美人に導くツボがあるあたりよネ」

「よく覚えていたね」

葬儀屋に教わったことに関しては、とても物覚えの良いグレルだ。

「ほら、自分で触ってごらん」

「んーー、よくわかんなぁいー」

手を取って促されるものの、甘え半分、本当にわからないのも半分で、答える。そんな子どもっぽい応答が、葬儀屋の耳目を楽しませる。

「ヒッヒ……」

少し笑ったかと思うと、きゅっと指先に力を込める。

「イタっ!」

ツボなので、押しようによっては鈍い痛みが響くのだ。

「痛かったかい……じゃあ、きみが好きな力加減を、小生に教えておくれ……」

こんな至近距離で、何だか恥ずかしいコトをささやかれている。しかも、相手は超絶テライケメン。

「にゅ、ヤ……」

そのまま、フェイスラインを丹念にマッサージされていく。頬が赤くなっていくのは、血行が促進されたためだけでは、もちろんない。音速で飛び出しそうな気分に浸っている夢見心地は、どれくらい続いたのだろうか。

「ひゃぁんっ!」

足の指に触れられて、我に返る。いつヒールを脱がされたのかも、気が付かなかった。

「いつの間に、足まで……」

「いやぁ、小生の足の爪を切ってくれたから、お返しに」

言うが早いか、口に含まれて、ネットリと、冷たい口内で転がされる。

「この、ムァンとマッタリ広がる芳香が、たまらないよぉ……っと、なんだ、伸びてないね」

足元から聞こえる声は、くぐもっていて、少なからず残念そうだ。

「アナタがついこの前、念入りに切って、磨いてくれたからじゃない」

.
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ