Rot U
□In der privatzeit〜2人の時間
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「仔犬ちゃん、よぉ〜く考えてごらん」
「きゅ?」
まだいくらか笑いを残した声で話し始めると、グレルは目をくりっと開いて、聞き入る。
死神派遣協会の上司たちのような説教口調でないので、聞く気になる。
もちろん、大好きな葬儀屋の、体の奥までズクンと響く声であるからでもある。
「足の爪先を真っ赤に染めている男が棺の中に横になっていたら、きみはイケメンだと思うかい?」
「………………」
イケメンなら、たいていのことは許容されると思っているものの、そこに「真っ赤なぺディキュア」が必要不可欠かと問われれば、よくわからない。
そもそも、何が何でもペディキュアにこだわりたいのではなく、葬儀屋の体にぺとぺとスリスリできれば、何でもよいのだ。
ちなみに、死神寮でグレルのこの手のイタズラ心の餌食になった者は、数知れない。
ある非力な後輩など、寝込みを襲われて襟足を刈り上げられてしまった。挙句、「ワカゾー相手じゃ、なんにも感じないワ」と、オモチャにされるだけされて、捨てられたのだ。
それをごまかすために髪をメッシュに染めて以来、そのヘアスタイルが定着したとも言われている。
「…………わかり、ました……」
「よしよし、イイ仔だねえぇ」
乾いた唇を潤すために、赤くて長い舌をチョロリと覗かせたところを、ちょんっと黒い爪で突かれる。
「にゅんっ」
反射的な声とともに開いた唇を、今度はピルリと舐められる。
「にゅ、ううー……」
葬儀屋の冷たい体温が、舌の先からグレルの体内を駆け抜けて、奥の奥に火を点す。
脇腹を抱えられて、ひざまずいた体勢から中腰の姿勢で体を支えられて、見えない視線が交差する。この日はまだ舌入りの本気のキスをしていなかったものだから、期待に胸をいっぱいにして、唇を差し出す。
「…………?!!」
ゆっくりゆっくり降りてきた葬儀屋の唇は、赤い髪の生え際のこめかみやら、まつげやら、額やら。唇以外のありとあらゆるところをついばんで、愛しんでゆく。
そのたびにグレルは、ピリッとしたり、ふにゃっとしたり、クネッとなるのを、クキッと立て直したり。忙しなく降り注がれる刺激の連続に酔う幸せを、満喫する。
病的に白い指を持つ片手は、グレルのあごを固定する。もう片方の手は、耳やら頬やらを撫でくり回しているかと思うと、耳たぶの下から裏側のあたりを探るように動く。
「ソコって……フェイスラインのリンパを流してあげて、すっきり血行のいい小顔美人に導くツボがあるあたりよネ」
「よく覚えていたね」
葬儀屋に教わったことに関しては、とても物覚えの良いグレルだ。
「ほら、自分で触ってごらん」
「んーー、よくわかんなぁいー」
手を取って促されるものの、甘え半分、本当にわからないのも半分で、答える。そんな子どもっぽい応答が、葬儀屋の耳目を楽しませる。
「ヒッヒ……」
少し笑ったかと思うと、きゅっと指先に力を込める。
「イタっ!」
ツボなので、押しようによっては鈍い痛みが響くのだ。
「痛かったかい……じゃあ、きみが好きな力加減を、小生に教えておくれ……」
こんな至近距離で、何だか恥ずかしいコトをささやかれている。しかも、相手は超絶テライケメン。
「にゅ、ヤ……」
そのまま、フェイスラインを丹念にマッサージされていく。頬が赤くなっていくのは、血行が促進されたためだけでは、もちろんない。音速で飛び出しそうな気分に浸っている夢見心地は、どれくらい続いたのだろうか。
「ひゃぁんっ!」
足の指に触れられて、我に返る。いつヒールを脱がされたのかも、気が付かなかった。
「いつの間に、足まで……」
「いやぁ、小生の足の爪を切ってくれたから、お返しに」
言うが早いか、口に含まれて、ネットリと、冷たい口内で転がされる。
「この、ムァンとマッタリ広がる芳香が、たまらないよぉ……っと、なんだ、伸びてないね」
足元から聞こえる声は、くぐもっていて、少なからず残念そうだ。
「アナタがついこの前、念入りに切って、磨いてくれたからじゃない」
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