Rot
□Ein Alptraum
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いつも葬儀屋が纏っている「気」とは違っているような印象を受けて、グレルは黙ってしまった。
葬儀屋も、そんなグレルを気遣うでもなく黙ったままだ。
暫時の沈黙に耐えられなくなって、グレルは自分から葬儀屋の唇に飛び付いた。
そうするのは初めてではないし、次第にタイミングや角度を測れるようになってきた自信もあったのに。頬骨がぶつかり、唇が脇に逸れる。それでも何とかスライドさせて唇を合わせ、いつものように舌を入れる。
「ん…ふ…」
いつものように気持ちを込めて。いつものように酔えるように。いつものように下唇の両端を代わる代わるつつきながら…
何かが違う。
――ここではバニラが香っていない――
グレルはすっと唇を離した。が、葬儀屋の手が体を離すのを許さなかった。
「夜這いに、来たんだろう…?」
そのまま強い力で引き倒し、体勢を入れ替えてグレルの上に覆い被さる。
「キャ…あっ…!」
抵抗するが、その細さからは予想もつかない葬儀屋の握力で封じられる。いやらしく腰に手を這わせる性急な動き。グレルはもがいて身を捩るが、のしかかる葬儀屋には通用せず、逆に敏感なところに爪を立てられて悲鳴を上げる。
「こんな時間にここへ来た、君のペナルティーだよ」
別人のように凍った葬儀屋の声が、耳元に寄せられた唇から発せられ、グレルの背中にゾクリとしたものが走る。
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